過去に囚われて③
萌は唇が荒れやすく、リップクリームは必需品だった。
だけど、そのリップクリームを僕の家に忘れてしまったから近所の店に出掛けたんじゃないか……。
夜中に開いている店なら24時間営業だろう。
この近くにはスーパーも薬局もあるが、どちらも24時間営業ではない。
四方木 梓:「……コンビニ」
ここに来る途中にコンビニがあった。
僕は急いでコンビニへ向かった。
『いらっしゃいませ』
店に入ると明るい声が響いてきた。
四方木 梓:「少しご協力お願いします」
他の客に見えない様に警察手帳をレジを担当していた店員に見せる。
僕はその店員に、事務所へ案内された。
店長は居ないとの事で、店長の代理として事務所に案内してくれた
青山:「この近辺で事件ですか?」
パイプ椅子を用意してくれた青山は眉を寄せて聞いてきた。
四方木 梓:「まだ事件と決まった訳ではないのですが、初乃咲萌というモデルをご存知ですか?」
青山:「あぁ知ってますよ。有名ですよね。この辺に住んでるみたいで昨日も夜中に来てましたよ」
いきなりモデルの話をされ、少し驚いていたが重要な事を教えてくれた。
やはり僕と別れたあと、この店に来ている。
青山:「初乃咲さんが、どうしたんですか?」
四方木 梓:「行方不明の可能性があるんです」
青山:「えっ!?」
四方木 梓:「防犯カメラの映像を見せてもらえますか?」
青山:「はい。確か0時30分より前だったと思います」
青山が0時15分に設定した映像を流し始めた。
少し画質が悪いが青山と背の高い男がレジを担当しているのが分かる。
僕は手帳とペンを手に、低画質の映像を見つめる。
僕と別れてすぐなら20分くらいだろうか。
青山:「あ、来ましたね」
青山が自動ドアを通過した萌を見て声を出した。
萌は予想より1分早い、0時19分に来店していた。
萌は迷わずレジの目の前にある化粧品コーナーに向かった。
僕は手帳とペンを強く握りながら萌の行動を見つめる。
僕の読みは当たっていた。
萌は2種類のリップクリームで悩んでいる。
萌の行動を細かくメモする。
特に変わった行動は見られない。
様子のおかしい客も見当たらない。
萌はしばらく裏面の詳細を見比べ、左手に持っていたリップクリームを棚に戻し、店内を少し見回ったあとレジに向かった。
レジは背の高い男が担当していた。
萌はシールを貼ってもらったリップクリームを鞄に入れ、コンビニを出て行った。
0時24分。
自分のケータイのメール送信履歴を見ると、リップクリームを忘れているとメールしたのが0時35分だった。
返信がなかったので、24分から35分の間、11分以内に何らかの事件に巻き込まれ行方不明になったと思われる。
何か分かるかもしれないと、僕は萌と同じリップクリームと比較していたリップクリームを証拠として購入した。
青山に礼をして、小さなコンビニ袋を受け取った僕はコンビニをあとにした。
Brrrrrrrrrrr……
胸ポケットに入れたケータイが震える。
液晶には白城と映し出されていた。
四方木 梓:「はい、四方木です」
白城 智:「芸能人が行方不明だから、少し大きめのチームが作られた。俺は今の担当があるから無理だが、梓はそのまま調査を続けてくれ」
四方木 梓:「はい、わかりました。ありがとうございます」
やはり頼れる人だ。
僕も白城の様な人間になりたい。
白城 智:「もちろん2人が付き合っている事は伏せてあるが、先に調査していたからって事にして梓がチームの頭だ。頑張れよ」
僕がチームを引っ張るのは初めてだった。
……素直に喜べない。
白城 智:「……見つかると、いいな」
白城の優しい声に下唇を噛み、ケータイを握る手に力が入った。
四方木 梓:「はい。彼氏として刑事として萌を探し出します」
電話を切った途端、堪えていた物が溢れ出した。
白城の優しさと、行方不明になった不安と、傍に居たのに助けてあげられなかった自分の無力さに涙が止まらなかった。
ずっと、ずっと、温かいものが頬を伝っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます