上書きされた復讐
四方木 梓:「萌のマンションからコンビニまで徒歩4分、という事が分かったくらいで、萌の行方に繋がる証拠は今も見つかっていない」
僕は渋滞している道路をゆっくり運転しながら、彼女の事を火茂瀬に話した。
火茂瀬 真斗:「執行人になったキッカケは復讐じゃないんですか?」
火茂瀬は僕が死体に触れたら犯人が解ると知っているから、疑問に思ったのだろう。
四方木 梓:「萌の死体さえ見つかれば復讐が出来る。だけど行方不明になって4年経つのに行方どころか生きているのかすら、解らないんだ」
生きてるなんて思ってない。
僕は1年で萌の生存を諦めた。
1年も行方不明で生きている確率の方が低いからだ。
四方木 梓:「彼女の死体を探しながら、僕は3年前に女性の死体が山の中で見つかる事件を任された。ビニールにくるまれた死体の特徴が美人で髪が長くて……雰囲気が、似ている気がして。萌を重ねて見てしまったんだ」
一度、深呼吸をする。
四方木 梓:「……萌も何処かで目の前の死体の様になっているんじゃないか。そんな事を考えたら死体を助けたくなったんだ。それで僕は手で触れて見えたビジョンの男を殺してしまった」
車内の空気が重い。
比例するかの様に渋滞が酷くなる。
四方木 梓:「それ以来、萌の復讐が出来ない代わりに、萌と重なってしまう死体を助け続けた。自己満と言ってしまえば、それまでだが、萌を助けてあげられなかった僕なりの罪滅ぼしなんだ」
信号が青になっても車の波は、なかなか進まない。
四方木 梓:「刑事として……と言うか人間として間違っているのは解ってる。終わりにしようとした時もあった。でも、萌に似ていると 目を背けることが出来なくて、僕は犯人を殺し続けた。気付けば復讐に依存していて、執行人と唱われる様にまでなってしまったんだ」
道路が少しずつ進み始める。
火茂瀬 真斗:「今でも、初乃咲さんの捜索をしてるんですよね?」
不安気に火茂瀬が聞いてきた。
四方木 梓:「もう捜索はほとんど出来てない。4年も前の事件じゃ足取りを掴むのは困難だ。それに復讐してやりたいが萌の死体なんて見たくない……僕の記憶は色んな萌が残ってる。死体なんて見たら、萌の笑顔が掻き消されちゃうんじゃないかって、怖くなるんだ」
ハンドルを握る手に力が入る。
火茂瀬 真斗:「彼氏なんだから彼女が死んでるなんて思わないで下さいよ。死んでるかなんて解らないのに生きてる可能性を捨てるなんてダメです!」
火茂瀬が身を乗り出して、赤信号でブレーキを踏んだ僕を叱る。
火茂瀬 真斗:「自分の目で彼女の死体を見るまで、諦めないで下さいッ!! じゃないと行方不明の彼女が可哀想です!」
眉をぐっと寄せて泣きそうな顔をする火茂瀬を見て驚いた。
僕は言葉が出ない。
火茂瀬 真斗:「彼女の話を始めてからずっと苦しそうな顔して、今もそれだけ愛してるんだから探しましょうよ! 俺も手伝います。霊達にも協力してもらいましょう? だから……だから、もう死体を探すなんて言わないで下さい。死体が見つかってないなら希望を捨てないで、生きている彼女を探しましょう?」
火茂瀬は瞳を潤ませながら、僕の顔を覗き込む。
そうか……火茂瀬は自分の彼女が死ぬのを目の前で見てしまったから復讐したんだ。
火茂瀬は彼女の死を受け入れている。
探すのも、見るのも、受け入れる事も嫌だなんて、僕は駄々をこねる子供と同じだ。
馬鹿だと思っていたが、火茂瀬の方が強くて、よっぽど大人だった。
四方木 梓:「運転中に、そういうこと言うな」
視界が歪んで前が見えなくなるだろ……。
火茂瀬と一緒なら、どんな結末でも僕は受け入れられる様な気がした。
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