依頼①


俺はで桑月一を殺しに廃墟ビル4階へ向かう。


廃墟ビルの入り口に立ち、殺人現場である4階を見上げた。


???:「桑月は来てるか?」


藤山真綾ふじやままあやに問い掛ける。


藤山 真綾:「えぇ」


真綾は短く答えた。


???:「じゃぁ行くか」


ネックウォーマーに鼻までうずめ、黒い革手袋をした両手をズボンのポケットに入れた。


桑月に俺の足音が聞こえる様に、音を立てながら一段一段上がって行く。


最近、警察が入ったから砂埃が溜まった床や階段には無数の足跡が残っていた。


廊下や階段には虫の死骸や烏の羽がそこら中に落ちている。


埃臭い階段を上がって行くと、2階の踊り場には鳩の死骸が落ちていた。


不思議と廃墟になっている所には、生きている生物は見当たらない。


3階の廊下や踊り場には、壁の落書きに使用したと思われるカラースプレーの缶が転がっていた。


4階に着くと物音が聞こえてきた。


???:「ちゃんと誘導出来てるね」


殺人現場である部屋の入り口に立つと、此方を向いて警戒していた桑月と目が合った。


桑月 一:「お、お前誰だよっ!?」


桑月はかなり困惑している様で、俺に向けるナイフの切っ先震えている。


???:「教えてもらったんだ。それとお前を殺してくれと頼まれた」


俺の言葉に、桑月は身の危険を感じて後退した。


俺は素早く、コートの内ポケットから麻酔銃を取り出して、銃口を桑月に向けた。


桑月 一:「うぅッ……」


バンッ……


麻酔銃を撃ち込む。


桑月は強制的に意識を手放し、膝を折ってうつ伏せに倒れた。


関節を折らなければならないので、腕を掴んで仰向けにする。


眠っている男を動かすのは大変なので、桑月が細身で助かった。


大きな声が出ない様に、コンビニで買ったハンカチを咥えさせた。


???:「さて。どっから折られたの?」


藤山 真綾:「右手の親指から順番に、指の付け根を折られたわ」


???:「俺さぁ、この事件の資料読んでないから詳しく知らないんだよねぇ。だからサポートよろしく」


藤山 真綾:「当たり前でしょ? この男殺せるなら何だってするわよ」


真綾は俺よりも明確な殺意が剥き出しだった。


???:「じゃぁ、これ終わったら今夜も……」


藤山 真綾:「それとこれとは話が別!! さっさと殺しちゃって」


???:「へいへい」


桑月の右手を持ち上げて答える。


左手で桑月の右手首を掴み、右手で桑月の親指を握る。


???:「そろそろ麻酔切れるから、金縛り掛けといて」


藤山 真綾:「もっと強い麻酔にすればいいのに」


真綾は面倒くさそうに、桑月の体に金縛りをかける。


???:「少量の麻酔にしてるのは生きてる間に分解できるようにするためだ。司法解剖した時に検出されたら困るからな。最初から金縛りする手もあるけど、結界張るのに霊力使うからお前もいきなり両方やるのは大変だろ?」


霊力を使い慣れていない者が、結界と金縛りを同時進行して霊力の配分が悪かった場合、結界が消えたり金縛りが解けてしまう虞がある。


そうなると依頼を果たせなかったり、最悪の場合、犯人に返り討ちにされる可能性が出てしまう。


少量でも麻酔銃を使うのは、速やかに依頼を果たすためなのだ。


藤山 真綾:「なるほどね…… 」


真綾が納得したようなので、俺は握った親指を、本来曲がらない方向に、力尽くで折り曲げた。


桑月 一:「!!!! ……ぐっ……ぅうッ!!……ッ!!」


カッと目を開け痛みに悲鳴を上げるが、口を塞がれていて上手く声が出ない。


しかも、金縛りが掛かっている為、抵抗すら出来ない。


???:「痛いだろ? お前は、楽しみながら女の指を一本一本折ってたのか?」


そう言いながら折った親指の隣にある人差し指を握る。


桑月 一:「ぅうッ!! ……ぅぶぶッ!!!……」


痛みに悶える桑月の悲鳴は口に咥えたハンカチが吸収する。


???:「お前が殺した女もイヤイヤしてたろ? でもお前は……こうやって、人差し指を折っただろ?」


力任せに勢い良く桑月の右人差し指を折り曲げた。


桑月 一:「んんんんんんッ!!! ……っ……」


涙を流しながら、焼けるような激痛に苦しむ。


コンビニで買った薄っぺらいハンカチは、桑月の涙と唾液でびちゃびちゃになっていた。


桑月の右手の親指と人差し指が不自然な方向に曲がっているのを眺めてから、一気に7本の指を折った。


そして桑月は痛みに耐え切れず気を失った。


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