迫る死①



数台の車が停まっているパーキングエリアに、愛車を停めた早朝。


今日は友達と和装をテーマにコスプレの撮影をする事になっていた。


私は巫女の衣装と、髪は普段長いので茶髪のショートウィッグを選んだ。


今回撮影するスタジオの近くに神社があるので、衣装とウィッグは既に装着済み。


被害者:「全然人居ないなぁ……」


車内から見る外の景色に人の姿は無かった。


誰かに見られて巫女だと思われたかったのだが、残念だ。


車内で少し待ってみたが、ジョギングする人すら現れない。


諦めて矢が飛び出している鞄と、そこには入らない弓を持って車を降りた。


鞄の中には撮影に使う小物やカメラなどの機材が入っていて重たい。


よたよたと歩いていると、いきなり声を掛けられた。


転ばない様に足元を見て歩いていたので、人が居たなんて気付かなかった。


茶髪男:「あの神社の巫女さん?」


銀髪男:「重たそうなの持ってんねぇ。手伝ってあげるよ?」


ヘラヘラと笑う3人組の若い男が近寄ってきた。


見るからに近付きたくない部類の人間だ。


今朝はとても冷えていて、防寒のために3人とも手袋をしていた。


巫女だと勘違いされるのは嬉しいのだが、声を掛けられる事は望んでいなかった。


被害者:「いえ、これくらい大丈夫です」


そう言って私の目の前に居る銀髪男を避けようとした。


茶髪男:「え、行っちゃうの~?」


茶髪男が道を塞ぐ。


金髪男:「人の親切は受け取っておくものだよ? 巫女さん」


金髪男に肩を掴まれた。


怖い、怖い……すごく怖い。


被害者:「あの、本当に大丈夫ですから」


前に進もうとしても男たちが迫ってきて駐車場から出られず、逆に駐車場の奥へ追いやられてしまった。


前には3人の男、背中にはフェンス。


逃げ場がない。


助けを呼ぼうにも、人通りは無いし、スマホは矢が飛び出した鞄の中だ。


銀髪男:「ねぇ巫女さん、そのバッグ重たそうだけど何入ってんの~?」


銀髪男が私の手から鞄を取り上げた。


被害者:「あっ!? だっだめ、返してっ!」


手から離れた鞄を追いかけようとすると、金髪男と茶髪男が私の腕をフェンスに押し付けた。


金髪男:「何? そんなに見られちゃ困るの入ってんの〜?」


金髪男の言葉にケラケラ笑う2人。


銀髪男はゆっくりと鞄のチェックを開けた。


銀髪男:「え〜なになに!? カメラ入ってんだけど? ホントに巫女さん?」


銀髪男は鞄の中から一眼レフカメラを取り出し、大きなレンズを私に向けた。


鏡のように磨かれたレンズに、恐怖に顔を歪めた私の顔が映り込む。


茶髪男:「もしかしてぇ〜……コスプレ?」


茶髪男の視線が私を舐めまわす。


銀髪男:「あの神社で撮影しようとしてたんだろ? 俺が撮ってやるよ」


銀髪男はニヤニヤ笑いながらシャッターを切る。


被害者:「いやッ! やめてッ!! やめてッ」


必死に抵抗しても男2人の力には敵わない。


銀髪男は嫌がる私を撮り続ける。


被害者:「うぅ……やめてっ……いやぁ……ッ……」


恐怖に涙が溢れた。


顔を背けても金髪男に顎を掴まれて、前を向かせられる。


銀髪男:「泣いてる顔もそそるけど、セクシーな巫女さんも見たいなぁ〜」


銀髪男の言葉にニヤリと笑った茶髪男は胸元に手を伸ばし、下品な笑い声をあげた金髪男は袴を掴んだ。


被害者:「いやッ!! やめてッ! いやァ!!」


押さえ込まれていない脚をバタつかせ、男の手から逃れるために肩や腕を力任せに動かした。


だが私の抵抗は無意味で、あっという間に下着を露出されてしまった。


胸元は大きくはだけピンクのブラジャーが露出し、お揃いのショーツも外気に晒される。


金髪男:「うるせぇ巫女さんだなぁ」


楽しそうに笑う金髪男はジーパンのポケットから取り出した折り畳み式のナイフで袴を切り裂き、その切れ端で口を塞がれた。


被害者:「んんっ!! んーッ! んんんッ」


必死に暴れても涙が溢れてくるだけで、2人の男に押さえ込まれている状況は何も変わらなかった。


銀髪男:「あぁ……いいねぇ、その顔」


色々なアングルで楽しそうにシャッターを切る銀髪男。


金髪男は再びしゃがみ込むと、袴を更に引き裂いた。


そして腕をTの字にした状態の手首を、袴の切れ端でフェンスに括り付けた。


被害者:「んんんッ!! んんっ! んーんッ!!」


流れる涙は口を塞ぐ赤い布切れに染み込んでいく。


手の空いた2人の男は、私の鞄をあさり始めた。


金髪男:「へぇ、高世奈々美たかせななみっていうんだ」


金髪男は鞄の中から取り出した長財布を広げ、免許証を見て口角を上げた。


茶髪男:「これって、本物?」


茶髪男が弓矢を手にする。


コスプレ用の小道具として持ってきたものだが、私が学生時代に弓道部で使用していた本物の弓矢だ。


ちゃんと的を射る事が出来る。


金髪男:「これ、使わね?」


金髪男の言葉に茶髪男は楽しそうにニヤリと笑った。


2人の男は立ち上がると弓矢を持って私の目の前に来た。


銀髪男:「実は俺たち、アンタを殺さなくちゃいけないんだよ」


――っ!?


銀髪男の言葉に瞬きを忘れ、一瞬涙が止まる。


そして今まで感じた事のない恐怖に全身が震え始めた。


高世奈々美:「んんッ!! んんんッ!!」


大声で助けを呼びたくても、袴の切れ端が私のSOSを吸収してしまう。


一瞬止まった涙は、倍以上になって流れ始める。


暴れても両腕がしっかりフェンスに固定されているので、逃げ出す事も出来ない。


銀髪男:「弓矢使えんの?」


茶髪男:「無理」


金髪男:「触った事もねー」


銀髪男の問い掛けに2人は首を振る。


茶髪男:「あ、俺使えるやつ知ってるわ」





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