二人目


亀井と火茂瀬に電話で最後にもう一度支持を出した。


文字盤がもうすぐで半分に割れる。


背後に8人の部下を連れて玄関の前に立つ。


都内のマンションの二階に君島漣の自宅はある。


秒針が12を指したのを確認して玄関チャイムを押す。


???:「朝っぱらから誰ですかぁー?」


玄関を開けたのは、化粧をしていない女性だった。


一緒に暮らしている君島と同い年の彼女だ。


彼女:「えっと、あの……どちら様、ですか?」


背が小さい彼女は困った顔で僕を見上げる。


警察手帳を見せると、小さな悲鳴を上げた彼女は口元を両手で押さえ、眉間にシワを寄せる。


四方木 梓:「君島漣はどこに居ますか?」


彼女:「せ、洗面所に……」


彼女は目に涙を溜め、震える指先で暗い部屋の奥を指す。


玄関から洗面所は確認できなかったが、光が漏れているのが見えた。


四方木 梓:「失礼します」


そう言って革靴を脱いで上がる。


僕に続いて4人の部下が家に上がり、残りの4人は玄関の外で君島が逃げ出した時の為に待機させた。


君島 漣:「どーした?」


洗面所に向かう途中で君島が出てきたので鉢合わせてしまった。


君島 漣:「うわっ!? 誰だアンタ等!」


君島は驚いて数歩後退する。


四方木 梓:「警察です。貴方に逮捕状が出ています」


君島 漣:「お、俺は殺してないッ!! 殺したのは俺じゃない!!」


彼女:「殺したって何のことッ!? 漣君何したのッ!?」


僕たちの間を割って入り、取り乱している君島に彼女が泣きながら飛び付く。


四方木 梓:「君島漣の罪状は脅迫です」


涙を流す彼女の背中に告げる。


彼女:「う、嘘だよねッ!? 漣君、そんな事してないよねッ!?」


彼女の質問に君島は眉を寄せ、彼女を見つめ返すだけで何も答えなかった。


いや、涙を堪えるのに必死で何も答えられなかったのだ。


彼女:「ねぇ!何とか言ってよッ!! 漣君! 漣君ってばッ!!」


彼女が君島の腕を掴んで、急かす様に揺さぶる。


君島 漣:「うるせーッ!」


君島は彼女を振り払って、突き飛ばした。


四方木 梓:「罪を増やす気か?」


手錠を取り出し、1歩前へ出る。


君島 漣:「近寄るな、ホモッ!!」


四方木 梓:「侮辱罪も追加だな」


君島にまで、あの時の事故を見られていたのか。


部下は何を言っているんだという顔で君島を見ているから、変に思われる事はないだろう。


暴れ始めた君島を3人の部下が抑え付け、僕は動けなくなった君島の手首に手錠を掛けた。


四方木 梓:「6時3分21秒、君島漣逮捕」


1人の部下は床で泣き崩れている彼女に声を掛けに行く。


四方木 梓:「君島を連れて行け。あと彼女に事情を説明しといてくれ」


部下に指示を出し、僕はスマホを取り出す。


四方木 梓:「君島漣確保。そっちは?」


火茂瀬に電話を掛けた。


火茂瀬 真斗:「真南確保しました」


四方木 梓:「ご苦労。お前には後で話がある。覚悟しておけ」


火茂瀬のお陰で難を逃れたはずが、危うく‟また一難”になるところだった。


火茂瀬 真斗:「えッ!? 俺なにかしま――」


途中で電話を切る。


すると、すぐにスマホが鳴った。


火茂瀬が掛け直してきたのかと思って無視しようとしたが、液晶を見ると亀井の名が表示されていた。


応答をタッチすると、ほぼ同時に亀井の声が聞こえてきた。


亀井 威:「――もしもしっ。亀井です」


いつもの明るい声色ではなかった。


早口になっている事から、焦っているのだと窺える。


四方木 梓:「四方木だ。何かあったのか?」


亀井 威:「ふ、文月が居ませんッ」


亀井の焦った声色を聞いた時点で予想は出来ていた。


亀井 威:「家はもぬけの殻でした。すみません」


文月が直接殺人を犯していたら死体に触った時点で居場所が分かるのだが、今回は僕の力で追跡が出来ない。


四方木 梓:「そうか。わかった」


火茂瀬の霊力を使えば簡単に見つけられるだろう。


だが、今回は復讐ではなく、逮捕が目的だ。


怪しまれない為には地道に手掛かりを探して見つけ出すしかない。


亀井 威:「すみません。僕の責任です」


四方木 梓:「お前の責任じゃないが、すぐに文月の自宅周辺で聞き込み調査を始めてくれ」


亀井に指示を出し、電話を切る。


もしかしたら、張り込みの最中の僕たちを見て勘付いたのかもしれない。




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