手掛かり②




火茂瀬 真斗:「梓さん、外しました!?」


四方木 梓:「いや、そんなはずはない!」


目の前の文月を見る。


額には矢が刺さっているし、地面には血が飛んでいる。


生きているはずがない。


文月 奏:「やめてくれ! 殺したのは俺じゃないッ! 俺じゃないんだ!!」


やはり許しを乞う文月の声がする。


四方木 梓:「どういうことだ?」


僕は首を傾げる。


目を凝らして死体を見つめる。


矢が額に突き刺さり 垂れ下がる文月の頭と目をつぶる文月の横顔。


四方木 梓:「頭が2つ!?」


僕は有り得ない現実に驚きを隠せない。


火茂瀬 真斗:「あ、そーゆーことか」


僕の横で何故か納得している火茂瀬。


よく見ると横顔は青白い。


四方木 梓:「今まで殺してきた奴らも、こうだったのか?」


今まで僕は霊が見えなかったから気が付かなかっただけなのか?


火茂瀬 真斗:「いえ、罪人の魂は浄化する為にあの世に行くんスけど……今回みたいなパターンは俺も初めてっス」


四方木 梓:「じゃぁ何で納得してるんだ?」


火茂瀬 真斗:「あいつ 自分が死んでる事気付いてないんスよ、きっと」


2人で、未だ目をつぶって許しを乞う文月の前に立つ。


火茂瀬 真斗:「おい」


火茂瀬は文月の霊の頭を掴んで、死体から引き剥がした。


文月 奏:「うわッ!?」


引き剥がされた文月の霊はバランスを崩し、地面に倒れた。


そして素早く立ち上がると、僕たちから数歩離れた。


文月 奏:「何なんだよ、お前らッ!」


四方木 梓:「執行人だ」


僕は、怯えながら此方を警戒する文月に告げる。


文月 奏:「は? 執行人?」


文月は頬を引きつらせながら笑う。


火茂瀬 真斗:「後ろ見てみろ」


火茂瀬が顎で後ろの死体を指す。


文月 奏:「そんな手に乗るかよ」


火茂瀬 真斗:「いいから見てみろ」


文月は僕たちを警戒しながら、ゆっくりと後ろを振り返った。


文月 奏:「ッ!?」


文月は自分の死体を見つめ、声が出ない。


火茂瀬 真斗:「お前はもう俺たちに殺されてんだよ」


文月の背中に死刑が終わった事を伝える。


文月 奏:「……そ……だ」


火茂瀬 真斗:「は?」


文月が何を言っているのか聞き取れないので火茂瀬が聞き返す。


文月 奏:「嘘だッ!! ……嘘だ嘘だ嘘だッ!!」


四方木 梓:「嘘じゃない」


理解力が低くてイライラする。


文月 奏:「いや、嘘だ! だってお前ら、俺と話してるじゃんか!? 俺は生きてるだろッ!?」


文月は勢い良くこちらに振り返り、必死に事実を否定する。


火茂瀬 真斗:「俺たちは霊感があるから今、お前と話しが出来るんだ」


文月は信じられないと言った顔で、嘘だ嘘だと繰り返す。


文月 奏:「俺は女を殺してないだろ!? 殺したのは藤川じゃねーか! 何で俺が殺されなきゃなんねーんだよ!?」


自分に罪は無いとでも言いたげだ。


火茂瀬 真斗:「お前が殺してないのは知ってる。けど、お前は逃げた。だから依頼されたんだ。殺してくれって」


文月 奏:「誰がそんな依頼したんだよッ!?」


火茂瀬 真斗:「高世奈々美だ」


文月は誰だか分からない様で、眉間にシワを寄せる。


文月は高世の名を覚えていないようだ。


火茂瀬 真斗:「この駐車場で殺された高世奈々美だ」


文月の死体を顎で指しながら火茂瀬は冷たく言った。


文月 奏:「ふざけんなよ!? あ、あの女はここで死んだじゃねーか!!」


理解できず、怒鳴り散らす。


文月 奏:「あの女に依頼されたって証拠見せてみろよ!」


火茂瀬 真斗:「いいよ。これが証明できたら、お前が死んでるって事の証拠にもなる」


高世は自分を殺せと命じた文月を見たくなかったので、駐車場の外に居た。


火茂瀬は結界を張っている高世を呼ぶ。


すると少し間があってから、高世は火茂瀬の背中に隠れる様にして現れた。


火茂瀬 真斗:「見えるだろ?」


文月 奏:「ッ……うそ、だろ……じゃ、俺……本当に……」


文月は高世を見つめ、数歩後退した。


背中がフェンスではなく、己の死体にぶつかり反射的に振り返る。


火茂瀬 真斗:「そうだ。お前は死んだんだ」


火茂瀬は文月の背中に告げる。


文月 奏:「そん、な……そんな……」


声を震わせながら死体を見つめる。


四方木 梓:「文月、お前は何でこんな事したんだ?」


僕から文月に声を掛けた。


文月は自分の死体を見ていられなかったのか、こちらを向いてその場に座り込む。


文月は目に涙を溜めていた。


文月 奏:「俺たちはんだ」


文月はアスファルトの一点を見つめながら悔しそうな顔をする。


四方木 梓:「頼まれた……?」


火茂瀬 真斗:「女に……!?」


僕と火茂瀬では引っ掛かる所がやはり違う。


文月 奏:「3人でBARに行ったんだ。そのBARは普通のBARなんだけど、そこのって呼ばれてる女に気に入られると良い仕事貰えるって噂があってさ。面白そうだから行ってみたんだよ」


僕は手帳を取り出し、情報を書き出す。


文月 奏:「3人で呑んで2時間くらいねばったけど、無理そうだから帰ろうとしたら、歌姫から、2階に来るようにって書かれたカードを貰ったんだ」


その後3人は2階に向かい、歌姫に会ったそうだ。


そこで、いくつかの質問を受け、仕事の話をされたらしい。


四方木 梓:「どんな質問を受けた?」


文月 奏:「年収はいくらかって」


他にも重労働は出来るか、仕事内容を秘密に出来るか、金は欲しいか、などの質問を受けたと、文月は話す。


文月 奏:「あと……私、綺麗? って」


文月は不思議そうに呟いた。


火茂瀬 真斗:「犯人は口裂け女で決まりっスね!! 」


火茂瀬は頭の電球が光り、有り得ない事を口走る。


四方木 梓:「んなわけないだろ! アホか!」


火茂瀬の頭上で光る電球を叩き割る。


火茂瀬 真斗:「イデッ! じょ、冗談じゃないッスかぁ〜、もぉ」


四方木 梓:「仕事の話はどうされた?」


頭をさすっている火茂瀬は無視して文月に質問を続ける。


文月 奏:「街で美人を見つけたら殺すだけの簡単な仕事だ……って」


四方木 梓:「お前は何で引き受けたんだ?」


どれだけの大金を受け取ったとしても、引き受けてはいけない仕事だ。


文月 奏:「自分でも何で引き受けたか分からねぇんだ……飲んでたせいか記憶が曖昧で」


四方木 梓:「今から、そのBARに案内しろ」


手帳をパタンと閉じる。


火茂瀬 真斗:「BARならこの時間でもやってますしね」


文月 奏:「電車は動いてねーよ。こっからじゃ近くねぇから歩きじゃ無理だ」


文月は驚き、面倒臭そうな顔で僕を見上げる。


四方木 梓:「安心しろ。車だ」


火茂瀬 真斗:「お前は重要人物なんだ。逃げられると思うなよ?」


僕らの鋭い視線に、逃げるのを諦めた文月は立ち上がった。


文月 奏:「わーったよ。案内すっから、その目止めてくれ」


文月は迷惑そうに言った。


四方木 梓:「よし、すぐに向かおう」


霊に手錠は使えないので、霊感の強い火茂瀬が文月の腕を掴んで拘束する。


僕たちは復讐が終わった駐車場を出た。




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