歪む愛
ヒツキ:「頭狂ってたけど、あの男の腕は確かだったわ。この子に代わって私が耐えれば元の綺麗な顔にしてあげられる。そう思ったんだけど、予想以上に男が手を出して来るのが早かったの……」
仮面を外したヒツキの顔は、未だに目元の皮膚が垂れ固まっている箇所があった。
皮膚の突っ張りや乾燥している部分もあり、その顔はまだ未完成だった。
ヒツキ:「私はこの子を傷付ける全てから守るって決めたの。だから息を荒立てて迫って来た男を殺したわ。この子を見つめる気持ち悪い両目を潰して、この子に触れた両手を砕いた。狂ったことを言う口を引き裂いて、腐った頭を踏み潰した。」
萌の身に起きた悲劇を語りながらも、銃口が僕から逸れる事は無かった。
ヒツキ:「それから……私は 顔が未完成のまま逃げ出したの。驚いた事に監禁されてたのは山の中に建てられた家で、この子の部屋と男が寝泊まりする部屋しかなかったわ。自分で建てたのかもね? 男は貴方の存在をずいぶん前から知ってたみたいだったから、自分の腕試しも含めた計画的な犯行だったわ」
ヒツキは僕を呆れた顔で睨みつけた。
僕は自分たちの周りを嗅ぎ回っていた男の存在に気が付かなかった。
萌と二人で幸せになる事しか考えていなかった僕は、‟ファン”という僕と同じ様に彼女を好いている人達の存在を忘れていた。
もしも男の存在に気付いていたら、萌の身の安全を確保してあげていたら……。
もしも、なんて考えたらキリがなかった。
四方木 梓:「なぜ……僕に連絡をしなかった」
今更何を言っても現実は変わらないが、もしかしたらすぐに萌の事を探し出せたかもしれないし、萌の人生を狂わせた男を僕が殺せたかもしれない。
ヒツキ:「大好きな貴方にこんな顔見られたくなかったのよ、この子は」
四方木 梓:「助けてあげられたかもしれないだろ!?」
ヒツキ:「警察である貴方に連絡すれば多くの人間が動き、多くの目にこの子は晒される。気持ち悪がられるのも、同情もこの子を傷付けるだけ」
怒りから拳銃を持つ右手が震えている。
ヒツキ:「あの男を殺したのは私。この子に記憶が無くても世間は、この子が殺して逃げ出したと思うでしょ? 覚えもないのに殺人者だと咎められる。私の役目はこの子が目を覚ました時、傷付かない世界を作ること」
四方木 梓:「じゃあ何故、ステージに立つ。人目に晒されるのを嫌がるなら、ステージに立つなんて、ありえないはずだ」
ヒツキ:「この子の為に、お金が必要だった。返り血を浴びた私を、マスターが助けてくれたの。ステージに立つことを条件に、顔を隠して住み込みで働かせてくれたわ」
ヒツキはお金を稼いで、萌の為に手術をしようとしていた。
なのに何故、殺人依頼をする様になってしまったんだ。
四方木 梓:「人を、殺すように命じる必要は無かっただろ……」
ヒツキ:「不愉快だったのよ」
ヒツキが僕を睨む。
ヒツキ:「この子が苦しんでるのに、楽しそうに愛する人に笑顔を向けて、幸せそうに暮らしてる! この子だけ苦しんでるのが許せなかったのよ! この子が目を覚ました時、綺麗な子はこの子だけでいいの」
四方木 梓:「そんな理由で――」
ヒツキは無言でトリガーを引いた。
部屋に銃声が響く。
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