絡まる二人①
火茂瀬 真斗:「ブラックで良かったですよね?」
四方木 梓:「あぁ。ありがと」
ソファーに座り、熱いブラックコーヒーを受け取る。
事件が発生してから2日後、仕事終わりに話がしたいと火茂瀬からの誘いで、彼の家に招かれた。
四方木 梓:「……話って執行人の事?」
コーヒーを啜りながら、火茂瀬の言葉を待つ。
火茂瀬 真斗:「今回、執行人は動きますか?」
僕の目を真っ直ぐ見る火茂瀬は、僕が髪の長い女の時だけ復讐することを知らないようだ。
四方木 梓:「僕は美人が殺された場合、全ての女性の代わりに復讐するわけじゃなくて“長髪”の時だけに限るんだ」
火茂瀬 真斗:「……長い、髪……」
火茂瀬は顎に手を当て、考え込む。
火茂瀬 真斗:「あっ!!」
執行人とコピーキャットの大きな違いに漸く気が付いたのか、急に声を上げた。
火茂瀬 真斗:「執行人の手口と同じにしようと思って色々資料見てたんすけど、ロングってのは気付かなかったッス」
四方木 梓:「いや、気付けよ」
まだ熱いコーヒーを口に含む。
火茂瀬 真斗:「……じゃぁ今回、梓さんは殺るんですね?」
四方木 梓:「計画を立ててる途中だよ」
コーヒーの湯気で曇ったメガネをマイクロファイバーのクロスでレンズを拭き、綺麗になったメガネを掛け直す。
火茂瀬 真斗:「あの……お願いがあるんですけど……」
隣に座る火茂瀬はコーヒーを啜る僕に体を向け、座り直した。
火茂瀬 真斗:「一緒に殺らせて下さいっ!」
何をお願いされるのか予想していなかったので、火茂瀬の申し出に驚き、飲んでいたコーヒーを吹いてしまった。
四方木 梓:「はっ!?」
手の甲で濡れた口元を乱暴に拭いながら目を見開く。
火茂瀬 真斗:「今回だけでも良いんです! もう被害者から依頼来て、OKしちゃったんですよ! んで、今夜夢で会う約束してるんです。だからお願いします! 一緒に殺らせて下さい!!」
わざわざ座り直したのに、火茂瀬はソファーから降りて、絨毯の上で土下座をした。
四方木 梓:「ちょっ、顔上げろ……」
なんなんだ、こいつ……。
四方木 梓:「……お前は復讐よりも夢でヤることの方が大切なのか?」
呆れて溜め息しか出てこない。
火茂瀬 真斗:「そんな事ないです。正義のヒーローじゃないですけど、今まで女性のために殺ってきたんです。夢の中で会うのは報酬の代わりなんです。さすがに無償じゃ人殺しは出来ないですし。自分なりの利益無いと……」
真剣な顔で言っているので本音なのだろう。
四方木 梓:「殺る気があるならこれから一緒に殺ってもいいぞ」
殺人をしている時点で半端な気持ちではない事は解っている。
僕だって遊びのつもりは最初から無い。
味方が居ればお互い楽な時もあるだろう。
火茂瀬 真斗:「ありがとうございます! 絶対足は引っ張りませんから!!」
火茂瀬は僕の手を握ってブンブン振った。
火茂瀬 真斗:「よし! そうと決まれば早く寝ましょう! そろそろ約束の時間なんです」
火茂瀬はいきなり立ち上がると服を脱ぎ始めた。
四方木 梓:「おい、いきなり脱ぐな」
火茂瀬 真斗:「え? 別にいいじゃないですか。男同士ですし。え、梓さん……もしかして」
ベルトに掛けた手を止め、僕を見つめる。
四方木 梓:「違うわっ!!」
火茂瀬 真斗:「アハハハ。冗談ですよ」
火茂瀬は笑いながらスウェットに着替えた。
四方木 梓:「なぁ……時間って言ってるけど、被害者の霊はここに居るんじゃないのか?」
僕は洗面所から歯ブラシを持ってリビングに戻って来た火茂瀬に聞く。
火茂瀬 真斗:「大事な話をするからって席は外してもらってましたから。夢で待ち合わせなんスよ」
霊感の無い僕には居ても居なくても同じなんだがな。
四方木 梓:「そうか……じゃぁ僕は帰る」
ソファーの脇に置いていた荷物とコートを手に取り立ち上がる。
火茂瀬 真斗:「呼んだの俺ですし、泊まってって下さいよ」
四方木 梓:「いや、遠慮しておく。仕上がってない書類もあるし、僕も一人暮らしだから家の事が溜まってるんだ」
歯を磨いている火茂瀬に背を向ける。
火茂瀬 真斗:「じゃぁ、俺が本当に霊感あって被害者の女性と夢で会ってるのを証明してあげますよ」
“証明”という言葉に興味を惹かれ振り返ると、歯ブラシを咥えながら得意気な顔をしている火茂瀬と目が合った。
火茂瀬 真斗:「どーします?」
火茂瀬はニヤリと笑いながら洗面所に向かった。
四方木 梓:「……どうやって証明するんだ?」
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