絡まる二人②
洗面所から水の勢い良く流れる音が広い家に響く。
きゅっと蛇口をひねる音が聞こえ、火茂瀬がリビングに戻ってきた。
火茂瀬 真斗:「夢で彼女に会ったら梓さんに会ってくるように伝えておきます。梓さんは被害者の顔も名前も知ってるから証明になるでしょ?」
四方木 梓:「それはそうだが……別に泊まる必要は無いんじゃないか? 幽霊なんだから場所なんて関係ないと思うし……」
そもそも霊が存在するなんて思っていないが、存在すると仮定して実体が無いのだから瞬間移動でも出来るんじゃないかと、僕は思う。
火茂瀬 真斗:「女性に手間は掛けさせない。それが男ってもんじゃないスか?」
……僕の所に移動する時点で手間を掛けさせてると思うのだが、同じ部屋なら問題無いのか?
霊の事はよく解らない。
火茂瀬 真斗:「さ、とりあえず寝ましょう! 時間ちょっと過ぎちゃってる! 女性を待たせるのは失礼ですよ」
納得していない僕なんて関係なしに、火茂瀬は僕から荷物を取り上げ、布団の準備を始めた。
仕方なく諦めた僕は、スーツだったので寝やすいワイシャツになった。
クリーニングに出したスーツを取りに行くついでに、シワシワになるであろうこのワイシャツをクリーニングに出そう。
火茂瀬から貰った新品の歯ブラシで歯を磨き、火茂瀬のベッドの隣に敷かれた布団に入る。
家の主が風呂に入らず、待ち合わせ時間を守ろうとしているので、僕だけシャワーを借りるわけにもいかなかった。
気分は良くないが、真夏ではないので風呂に入るのは明日でも大丈夫だろう。
火茂瀬 真斗:「すみません、本当なら俺が床なんスけど、そっちの方が布団もシーツも綺麗なんで」
四方木 梓:「いや、僕は布団で構わない」
僕はメガネを枕元に置いてから横になる。
火茂瀬 真斗:「それじゃ電気消しますね」
真っ暗になった部屋で火茂瀬がベッドに入る音が聞こえる。
暗闇に目が慣れ、ぼやけた天井を見つめながら、証明など出来るのだろうかと考える。
眠りが浅ければ夢を見る事は可能だが、もし僕が深い眠りについてしまった場合、夢は見られないから証明が出来なくなってしまう。
最近夢なんて見ていない僕は浅い眠りなど期待しないで、1日の疲れを感じながら目を閉じた。
疲れていたのですぐに睡魔はやって来たのだが、何かを破く音に始まり、隣からの物音が気になって眠れない。
掛け布団の布が擦れる音もすれば、ギシギシきしむベッドの音も聞こえる。
おまけに火茂瀬の荒い息遣いまで聞こえてくる。
四方木 梓:「っ!?」
もしやと思い、目を開けて隣を確認すると、火茂瀬はベッドで横になって眠っているのだが、腰が動いている。
見てはいけない光景を目の当たりにし、慌てて目を閉じ、浅くてもいいから眠りにつこうとした。
……だめだ。
隣からの音が、眠りの邪魔をする。
布団を頭からかぶっても、意味はなかった。
諦めて、事が終わるまで耳を塞いで耐える事にした。
しばらくするとベッドのきしむ音が激しくなり、やがて、火茂瀬は短く声をもらし、全ての音が止まった。
隣を見ると静かになった火茂瀬が普通に眠っていた。
安堵の溜め息をもらすと突然、火茂瀬が目を開けた。
驚いて慌てて寝返りをうち火茂瀬に背を向け、寝たふりをする。
掛け布団を剥ぐ音が聞こえ、ティッシュを3枚取る音も聞こえた。
そして火茂瀬は寝室を出て行ってしまった。
すぐに遠くの方から水音が聞こえてきたので、シャワーに入っているのだろう。
本当に被害者の女性と夢の中で会っていたのだろうか。
そんな事を考えながら静かになった部屋で目を閉じる。
睡魔が再び訪れ、僕を眠りの世界へと誘った。
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