マイペースと几帳面
火茂瀬 真斗:「はい、メット。しっかり掴まってて下さいね?」
火茂瀬はピカピカの黒いヘルメットを渡して来た。
今夜は計画を立てるつもりで仕事終わりに火茂瀬の家に来たのだが、何故か家には上がらず。
四方木 梓:「なぁ、僕は計画を立てたかったんだ。無計画なんて無理だ」
ヘルメットを突き返す。
火茂瀬 真斗:「お互い殺り方分かってるのに、何が無理なんですか?」
突き返されたヘルメットには見向きもせず、火茂瀬は色々なステッカーが貼られた赤いヘルメットをかぶる。
四方木 梓:「今回はただ殺すだけじゃないんだぞ。犯さなくちゃいけないんだ。お前ちゃんと考えてるのか?」
火茂瀬 真斗:「考えてませんよ」
キッパリと言い切った火茂瀬にビックリして、思わずヘルメットを落としてしまった。
火茂瀬 真斗:「あ、でも練乳は買ったし、なんとかなると思いますよ」
“練乳”という言葉に、落としたヘルメットを拾おうとした手が止まる。
四方木 梓:「れ、練乳!?」
思わず顔を上げると、何驚いてるんですか、と言いたげな顔をしている火茂瀬と目が合った。
火茂瀬 真斗:「精液の偽装に使うんですよ」
火茂瀬は僕が拾い上げたヘルメットを取り、慣れた手付きで僕にヘルメットをかぶせた。
四方木 梓:「計画立てないで誰かに目撃されたら終わりだぞ?」
殺人は遊びじゃないんだ。
適当に殺っていては捕まってしまう。
僕は今まで、一人を殺す計画を立てるのに、何日も時間を費やした。
犯人の行動時間や行動範囲。
犯行現場の人の居ない時間帯。
犯行現場の見通し。
犯人を誘き出す為の口実など。
完璧な状態を作る為に、それらを調べ上げ、緻密に計画を立てていた。
火茂瀬の様に無計画で殺した事はない。
火茂瀬 真斗:「目撃なんてされないッスよ。結界張ってもらえるんで」
……忘れていた。
火茂瀬は被害者の霊に結界を張ってもらっていた。
そうか、だからこんな馬鹿でも僕のコピーキャットとして殺ってこれたんだ。
思い返すと、僕が殺るよりコピーキャットの行動は早かった。
一体どんなやつかと思っていたら、こんな無計画なやつだったとは。
残念だ。
というか、馬鹿にされてるみたいだ。
殺る環境が違うから仕方が無いのかもしれないが。
火茂瀬 真斗:「納得しました?」
火茂瀬はバイクに跨り、エンジンを掛ける。
四方木 梓:「あぁ」
渋々納得した。
悔しいが無計画でも結界が張っていれば馬鹿でも殺れる。
行き当たりばったり、なんて好きではないが効率は良いだろう。
僕は火茂瀬の後ろに乗ることにした。
火茂瀬 真斗:「しっかり掴まってて下さいよー? 2〜30キロオーバーで行くんで」
四方木 梓:「馬鹿野郎。一応刑事なんだから交通ルールは守れ」
ヘルメットをかぶった頭は叩けないので、横腹に拳を一発入れておいた。
火茂瀬 真斗:「うぐっ……じょ、冗談ッスよ。殴ることないじゃないッスかぁ」
殴られた横腹を摩りながら、後ろを振り返って火茂瀬は苦笑いを浮かべる。
四方木 梓:「お前なら、やりかねないと思ってな」
見た目のチャラさや、考え方の適当さからして、有り得るだろう。
火茂瀬 真斗:「心配しないで下さいよ。人の命乗っけてるんだから、そんな事しませんよ」
前を向いてしまったから表情までは分からないが、声の低さからして真剣な顔をしていると思う。
火茂瀬 真斗:「出発しますからね。落ちないでくださいよー 」
車にしか乗ったことのない僕は、バイクの後ろに乗ったは良いが、何処を掴めばいいのか分からず困っていると、火茂瀬が僕の腕を引っ張った。
火茂瀬は自分の腹に僕の腕がしっかりと回っている事を確認してからバイクを走らせた。
12月の中旬にバイクはとても寒い。
密着すれば、温かい。
……この体温を僕たちは奪っているのか。
良い事だなんて思ってない。
でも、何の罪も無い女性を殺す犯人が許せない。
犯人だから殺しても良いなんて思ってないが、人一人殺したくらいで死刑になる事は無い。
死者は復讐が出来ない。
苦しみを訴える事すら出来ない。
だから僕は代わりに復讐をしている。
あいつの為にも。
僕は復讐を続けなければならない。
いや、自分の精神安定剤として続けなくてはならない。
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