不協和音
事件が発生してから既に何日か経っているので、見張りは配置されておらず、黄色いテープが張られているだけだった。
日付が変わる時間帯は人通りが少なくなる場所なので、僕らは周りを気にせず、黄色いテープをくぐった。
誰かに目撃されたとしても、警察手帳を持っているし、上には捜査の一環と言っておけば問題はないだろう。
狭い路地を2人並びながら歩いて奥へ進む。
第一発見者の小倉は見当たらなかった。
さすがに殺人現場になった場所には、好んで住み着かないだろう。
四方木 梓:「お前、どこまで無計画なんだ? 犯人はどうやって連れて来る気だ?」
血痕が少し残る地面を見下ろす。
僕たちが先に来ても、殺す相手が居ないのでは意味がない。
火茂瀬 真斗:「俺たちは
四方木 梓:「誘導してたのか」
さすがに無計画でも、殺す相手が居ないと意味が無いからな。
火茂瀬 真斗:「俺じゃなくて香織が」
四方木 梓:「香織って被害者じゃないか。結界も張れて人間も操れるのに、何で自分で復讐しないんだ?」
少しは考えて動いているのかと思ったが被害者の霊任せとは。
火茂瀬 真斗:「自分で殺るやつも居ますよ。犯人を操って電車が来たホームに落としたり。最近人身事故多いじゃないですか。あれ、8割は男女問わず霊の仕業ですよ。人身事故の後片付けしてる時に、ぐちゃぐちゃになった死体を見て笑ってるやつ居たし」
霊感があると見えない情報が得られるのか。
四方木 梓:「じゃあ自殺や事故は少ないのか」
火茂瀬 真斗:「自分で殺るやつは、こっちが犯人見つける前にホームに落としたりするんで、書類上は“事故・自殺”になっちゃうんスよ」
見えない復讐か。
今、初めて霊感が欲しいと思った。
四方木 梓:「じゃぁ何で、わざわざお前に依頼するんだ?」
火茂瀬 真斗:「何でって言われると俺にも解んないッスけど……」
火茂瀬はヘルメットをかぶっていたせいで、ペタっとなってしまった髪をぐしゃぐしゃと乱暴に掻いた。
火茂瀬 真斗:「俺、彼女いたんスよ。殺されて、それで復讐して。多分それがキッカケです」
四方木 梓:「それって半年前の真白みゆきって女性か? ショートヘアの……」
火茂瀬 真斗:「そうです。みゆきは俺が高校の時から初めて本気で付き合ってた彼女です。今でも愛してます。だけど、もうアイツは居ないから気にしない様に、忘れようと思って依頼受けてエッチして……。そんな、簡単に忘れられるはずないのに。俺、馬鹿だから他に方法思い付かなくて…………」
火茂瀬は苦しそうに、無理に笑っている。
チャラチャラした裏側に、そんな辛い過去があったなんて。
本当はもっと真面目なヤツなんだな。
火茂瀬 真斗:「霊と会話が出来て同じ様に殺してくれるから、みんな依頼するんでしょうね。梓さんはどうして……」
言葉を切った火茂瀬は辺りを見回した。
僕も前嶋の気配を感じる方を見つめる。
四方木 梓:「来たな」
火茂瀬 真斗:「そうッスね。隠れましょう」
◇◇◇
前嶋 輝:「あれ? ……何で俺、こんなとこ来てんだ? タバコ買いに出たのに……気持ち悪りぃ」
路地裏に入って来た前嶋の様子を物陰に隠れながら窺う。
火茂瀬 真斗:「もう操ってないんで、逃げられる前に始めますよ」
火茂瀬が耳元で呟く。
四方木 梓:「結界は?」
火茂瀬 真斗:「張ってあります」
僕は死体に触れているから平塚の記憶を見たし、火茂瀬は平塚の霊に教えてもらえるから殺るのに問題は無い。
結界のお陰で、目撃される事もない。
だが、やはり無計画というのは心配になる。
計画を立てる為に、火茂瀬に見せようと思って前嶋が使用した物と同じナイフをコートの内ポケットに入れて来ておいて良かった。
四方木 梓:「よし、殺るか」
僕の合図で立ち上がり、僕らはキョロキョロしている前嶋に向かってまっすぐ歩いた。
僕は麻酔銃を取り出し、素早く撃つ。
前嶋は僕らの姿を確認したのと同時に意識を失った。
そして、視界にもう一つの麻酔銃が見える。
火茂瀬 真斗:「え……」
どうやら同じタイミングで火茂瀬も麻酔銃を撃っていたようだ。
四方木 梓:「二発は多いだろ」
火茂瀬 真斗:「……いつ起きますかね?」
2人して苦笑いを浮かべるしかなかった。
四方木 梓:「ま、長く寝てくれているなら、今回は都合が良いだろう」
無計画だと予想外な事が起こるし、息が合わなければ余計な時間が掛かってしまう。
火茂瀬 真斗:「ちゃっちゃと始めますか」
四方木 梓:「そうだな」
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