模倣犯②


僕は赤いバイクを横目に、黄色い立入禁止テープを跨ぐ。


砂埃や枯れ葉、虫や鳥の死骸などで汚れた床には調査で来た僕達の足跡が残っている。


僕がここへ来た理由は二つ。


一つは、執行人が行動する条件を満たした被害者なので、新たな殺人が起きないための見回りをするため。


白城の次は僕が見回りをする番なのだ。


そして二つ目の理由は、桑月の“気”を感じたからだ。


僕は藤山真綾に触れて犯人が解り、そしてその犯人である桑月の気配を感じ取る事が出来るのだ。


いつも僕はその不思議な力で、いち早く犯人をマークしている。


2階へ上がっている途中で上の階から呻き声が聞こえた。


四方木 梓:「やっぱり……」


桑月の気をこの廃墟ビルで感じた時からコピーキャットも居るのではないかと思っていた。


4階に着くと呻き声が大きく響いていた。


呻き声のする方の廊下に顔を向けると、やはり殺人現場の部屋がある方向からで、足音を立てない様にゆっくりと近付いた。


???:「ッ!!! ……んんんッ!! んーッ!! ……ぅヴヴ……んーッぅぐぐっ……」


中から男の呻き声が聞こえる。


おそらくコピーキャットに殺されている桑月の呻き声だろう。


???:「お! 折れた!」


四方木 梓:「――!?」


自分の耳を疑った。


???:「痛みに弱くても、体が丈夫ってのは辛いねぇ」


僕はこの声を知っている。


この声は……大腹警部に紹介された火茂瀬こもせ真斗まさとのものだった。


コピーキャットの正体――。


四方木 梓:「お前だったのか……」


血だまりに浸る桑月と予想外の人物の背中に、思わず心の声が漏れてしまった。


僕の声に火茂瀬は体をビクッとさせて、こちらに振り返る。


火茂瀬 真斗:「なん、で……」


火茂瀬は僕の姿を見て、目を見開いて固まってしまった。


四方木 梓:「話は後だ。早くここを出ないと見回りが来る」


僕は放心状態の火茂瀬の腕を掴んで立ち上がらせると、強引に部屋を出た。


火茂瀬 真斗:「あっ、ちょっと……み、見回りって……?」


背後から困惑する火茂瀬の声が聞こえる。


四方木 梓:「そんな事も知らないで、よくコピーキャットやってたな」


僕は階段を駆け下りながら説明する。


四方木 梓:「今回ここで殺された被害者は執行人が動く条件を満たしている。だから今夜から不定期で見回りが来るようになってるんだ」


僕は今夜の最後に見回りを担当する男に、片手で素早くメールを打ち、送信した。


『異常なし』


四方木 梓:「赤いバイクは桑月のものか?」


火茂瀬 真斗:「い、いや俺のッス」


四方木 梓:「……馬鹿なのか」


1階まで一気に駆け下り、赤いバイクの前で火茂瀬の腕から手を放す。


火茂瀬 真斗:「俺の家すぐそこだし、話なら俺の家にしません? 俺も聞きたいことあるし、案内します」


遠慮がちに火茂瀬が僕を見る。


四方木 梓:「そうか。じゃあ案内してくれ」


火茂瀬が運転するバイクを追う様に愛車を走らせ、数分後に到着したのは8階建てのマンションだった。




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