救いの手②



四方木 梓:「本当に貴方は殺意を持って、殺したのですか?」


藤川は紺色の服の袖で涙を拭う。


四方木 梓:「本当の事を話してください」


止まりかけた涙が再び頬を伝う。


藤川 大知:「ぼくは……殺したく、なかった。ただ、ただ妹を守りたかったんだ」


蛇口をひねったように大量の涙が頬を流れ落ち、藤川の服の上にシミを作っていく。


藤川 大知:「親を早くに亡くして、僕の家族は妹だけだった。大切な……妹を……あの3人から、守りたかった」


火茂瀬の鼻をすする音が聞こえる。


チラッと隣を見ると一緒になって涙を流していた。


……おい。


四方木 梓:「脅されていたのですか?」


藤川 大知:「殺さないと妹に手を出す、と。本当は自首するのも止められていたんだ。……だけど、僕はこのまま生きたくなかった……罪を償いたかったんだ」


藤川は膝の上で震える手の平を見つめていた。


四方木 梓:「脅されていた人物について教えてください」


藤川は涙を流すのを止め、脅された人物や状況を詳しく話し始めた。


銀髪男の名は、文月奏ふみつきそう


金髪男の名は、君島蓮きみしまれん


茶髪男の名は、真南眞一郎まなみしんいちろう


21歳の3人は同じ塗装屋で働いているらしい。


呼び出されてから殺すまでは、死体に触れて見たビジョンと同じだった。


藤川 大知:「自首した事がバレたら、あの3人は絶対妹に手を出してきます……少しの間、妹を匿ってもらえませんか!?」


藤川の申し出は簡単には了承できなかった。


何故なら少しの間と言われても、何日も警察側が匿ってはいられないからだ。


藤川を捕まえて3人を捕まえるとしたら、その間の調査や逮捕状を発布してもらうまでに自首した事に勘付いてしまう。


藤川の元に確認しに行く可能性もある。


もしかしたら、既に気付いて、3人は何らかの行動をしているかもしれない。


藤川の殺人罪は5年以上の懲役になるが、自首している為2年6ヶ月程度には縮まるはずだ。


更に不本意な殺人であるから、最短の1年3ヶ月になる可能性もある。


そうなれば、脅迫罪の2年以下の懲役より短くなるので藤川は罪を償った後、妹を連れて逃げる事は出来る。


だが、脅迫罪は2年以下の懲役または30万円以下の罰金であるから、罰金を払われてしまったら、藤川は妹を守る事が出来ない。


事情聴取を一時中断した僕たちは、上に報告する前に意見のすり合わせを行った。


四方木 梓:「指紋は検証中、画質は荒いが防犯カメラの映像は矢を放った藤川が映ってる。逮捕は時間の問題だ」


火茂瀬 真斗:「そうですね。でも自首がバレれば妹ちゃんが危ないですよ」


四方木 梓:「先に三人を逮捕できれば妹を守れる可能性がある」


火茂瀬 真斗:「……防犯カメラには三人も映ってますもんね。女性に乱暴してるところは死角で映ってませんでしたけど。……でも許可降りますかね? 藤川だけ証拠が揃ってる状態ですし」


四方木 梓:「執行人が動く可能性がある事件なんだ。藤川と三人を張っとくことで執行人の尻尾が掴めるかもって言えば簡単に順番くらい変えられるだろ」


火茂瀬 真斗:「ちなみ今回って……?」


小声の火茂瀬に僕は首を横に振った。


四方木 梓:「刑事として、全員逮捕する」



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