救いの手①
火茂瀬 真斗:「はい、ブラックコーヒーです」
四方木 梓:「ありがと」
火茂瀬から湯気の立ち昇る紙コップを受け取る。
火茂瀬 真斗:「いやぁ……驚きましたね」
火茂瀬はマジックミラーの向こう側を見つめる。
僕も熱いブラックコーヒーをすすりながら、火茂瀬と同じ小窓を見つめた。
四方木 梓:「こんなこと初めてだ」
小刻みに震える真っ青な顔をした青年は、今にも泣き出してしまいそうだ。
青年の名は
『自分が殺しました』
今朝、藤川はそう言って自首してきたのだ。
見るからに弱々しい青年が殺人なんて出来ないと、周りは笑っていたが、とりあえず事情聴取を僕らがすることになった。
四方木 梓:「そろそろ始めるか」
僕はブラックコーヒーを半分くらい飲んでデスクに置き、藤川の居る部屋の扉を開けた。
扉が開いた事に体が飛び跳ねるほど驚き、いよいよ視点が定まらなくなる。
藤川 大知:「ぁぁあ……あの、ぼくッ……あのあの…… 」
目に涙をいっぱい溜めて、同じ言葉を繰り返す。
火茂瀬 真斗:「ちょっ、落ち着いて、落ち着いて!」
火茂瀬が藤川の様子に慌てて落ち着くようになだめる。
……先ずお前が落ち着け。
四方木 梓:「落ち着いて下さい。今はとりあえず話を聞くだけなので……」
藤川の肩を優しく撫でる。
藤川 大知:「あああの! ……ぼぼぼ、ぼくが、殺したんです……ぼくが、ぼくがッ……僕を、捕まえてッ……」
溜めていた涙が頬を伝う。
四方木 梓:「落ち着いて。詳しく話してくれないと、捕まえる事も出来ません」
僕の隣に立つ火茂瀬がうんうんと頷く。
藤川 大知:「だからッ! 僕が殺したって言ってるでしょ!?」
落ち着かせる筈が、余計ヒートアップさせてしまった。
四方木 梓:「では、なぜ殺したのですか?」
僕の質問に、震えていた藤川は動きをピタリと止める。
藤川 大知:「なぜ……?」
そう呟いて僕を見つめる藤川の涙は止まった。
四方木 梓:「そう。なぜ殺したのですか?」
この質問で漸くおとなしくなった藤川と向き合って座る。
火茂瀬は僕の隣に立ったまま、心配そうに藤川を見下ろす。
藤川は何か考える素振りを見せた。
藤川 大知:「……殺したかったから」
予想外の言葉に僕と火茂瀬は目を見合わせる。
四方木 梓:「ど、どうして殺したのですか?」
藤川の言葉に動揺してしまった。
僕と火茂瀬は本当の理由を全て知っている。
藤川は悪くない。
でも、このままでは全ての罪を藤川が背負う事になってしまう。
事情聴取は録音されているので、藤川が話してくれない限り、真実は表に出ない。
僕たちは助け舟を出してあげるしか、藤川を救う術がないのだ。
藤川 大知:「殺したから殺したんだ。他に理由はない」
声が震えている。
再び目に涙が溜まる。
四方木 梓:「貴方1人で犯行に及んだのですか?」
藤川 大知:「ぼ、ぼくが1人で殺ったんだ」
四方木 梓:「僕には貴方が人を殺す様な人間には見えないです。とても優しそうに見えます」
藤川 大知:「ぼくは……ぼくは……」
藤川は涙を流し始めた。
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