模倣犯①
僕はブラックコーヒー片手に、自分のデスクで殺された藤山真綾のデータを見ていた。
鑑識が撮った何枚もの写真と死体の詳細を、藤山真綾に触れた事で見えたビジョンの記憶と確認しながら、頭に叩き込む。
藤山真綾は右手の親指から順に10本の指を折り、両手首、左肘、左膝、右肘、右膝、首の骨を折られている。
そして藤山真綾は、最後の首を折られる前に死んでいた。
四方木 梓:「膝なんて簡単に折れるのか……?」
ぼそっと独り言を呟き、コーヒーを口に含むと苦味が舌の上に広がった。
更に詳細を読み進めると、声を発生させない様に使用したのは、どこにでも売っているコンビニのハンカチだと分かった。
白城 智:「お、やっぱりここに居たか」
突然の声に驚いて振り返ると、僕を探していたのか、白城智が捜査一課のオフィスに入って来た。
四方木 梓:「どうしたんですか?」
僕は読んでいた資料から顔を上げ、首を傾げる。
白城 智:「見回りが終わったから連絡したんだけど電話出なかったからさ」
執行人が動きそうな現場は定期的に見回りを行っている。
白城 智:「ここに居るかもと思って」
白城は僕の隣のデスクに寄り掛かり、苦笑いを浮かべて僕を見下ろした。
僕は慌ててスマホを探す。
四方木 梓:「あれ、どこに置いたかな……」
デスクの上にはコーヒーの入った紙コップと資料が綴じられた青いファイルだけで探しているスマホは見当たらず、自分の体を触り、胸ポケットやスラックスのポケットを全て確認したが硬い感触は無かった。
四方木 梓:「あ!」
座っている椅子の背凭れに掛けられたジャケットのポケットを確認すると、漸く探していたスマホを見つけた。
ホームボタンを押すと、ロック画面には白城からの電話通知が30分前に1件とその5分後に1件来ていた。
四方木 梓:「すみません、全然気が付かなくて……」
見回りが終われば、そのまま次の人に連絡をしてその日の仕事は終了なのに、わざわざオフィスに戻ってきてもらった事に申し訳なくなり、眉をハの字して頭を下げた。
白城 智:「別に大丈夫だよ、鑑識に用事があったから、そのついで」
白城は軽く笑い、首を横に振った。
四方木 梓:「なら良いんですけど……その用事って言うのは終わったんですか?」
白城 智:「何かしら見つかってるなら早く分析してくれーってお願いをしたんだけど、現場から発見された新しめの血痕、被害者や第一発見者の子達とは一致しなかったらしいんだ。それで今、一致する人間がいないか分析してくれてる」
四方木 梓:「有力な証拠になればいいですね」
白城は僕の手からブラックコーヒーの入った紙コップを取ると、一口飲んだ。
白城 智:「苦っ……甘々じゃないと無理だわ、俺」
四方木 梓:「飲めないの分かってて何で飲むんですか……」
苦笑いを浮かべながら白城が手にしている紙コップを、中身がこぼれない様にそっと取り返す。
白城 智:「そろそろ飲めるかなって」
ハハッと笑って答える。
白城 智:「今日はもう遅いし、すぐには無理だな」
四方木 梓:「不良の溜まり場だと候補者が多くて、色々面倒そうですね」
事件とは無関係な人間の血痕の可能性もあるからだ。
白城 智:「仕方ない。鍵閉めたって入って来るから。むしろ鍵掛かってる方が好ましいから」
俺も若い頃は~と白城は、ありもしない昔話を始めた。
有名大学を成績優秀で卒業した彼が不良だった時代なんて存在しない。
後輩の僕はよく知っている。
白城 智:「さて、帰るかなぁ」
白城は立ち上がりスマホで時間を確認する。
白城 智:「最近、子供の寝顔しか見てないや。まとまった休み欲しいなぁ」
ロック画面に設定された愛娘の笑顔を見て溜め息をつく。
四方木 梓:「おいくつでしたっけ?」
確か結婚した年に子供が産まれたはずだ。
白城 智:「もうすぐ2歳。プレゼント何がいいかなぁ~」
頬を緩ませ子供の事を考える白城を見て、僕も結婚したかったなと思った。
最初、結婚できない僕の前で家族の話をしなかった白城だったが、いつまでも気を遣ってほしくないので、僕から話して欲しいとお願いした。
僕は……結婚出来ない、寂しい男なんだ。
白城 智:「んじゃ、ホントに帰るわ。おつかれ~」
白城は足早にオフィスを出て行った。
四方木 梓:「さて、と……」
桑月一の手口は全て把握してある。
先程まで見ていた資料を倉庫に戻し、僕は愛車を走らせた。
途中、コンビニへ寄ってから廃墟ビルに向かう。
現場に到着した僕は、辺りに人が居ない事を確認する。
四方木 梓:「ん……?」
入り口付近に堂々と赤いバイクが停めているのを発見した。
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