第9話 ウチ来る?

 駅前のスタバは土曜日ということもあってか。混んでいた。


 家を出る時にお姉ちゃんにデート? と聞かれてドギマギした。その様子を見てお姉ちゃんは嬉しそうにしていた。


 今度連れておいでよ。


「お待たせ!」

 さらさらのスカートにジーパンみたいな上着を着て現れた。


「下はともかく上は暑くないですか?」


「好きな人の前では可愛くありたいの。分かる?」


「いえ」


「もう、つれないな。でもいいよ。デートをしよう!」


 宣言をしてするものなのだろうか

 電車に乗って学校とは逆方向に初めて行った。あることだけ知っていた水族館、お城、美術館。


「疲れたね。アイスでも食べる? あそこのジェラート屋さん美味しそう」

 学校の頼り甲斐のあるお姉さんとは違う穂信。

 ちょっと可愛くて犬みたい、おかしくなって少し微笑んだようだ。


「あ、何か悪いこと考えたでしょ」


「いえ、そんなことは」


「ふぅん、そう。それよりさ、並ぼうよ。水分補給してさ、こんな暑いんだよ。乾燥しちゃうよ。日焼け止めも意味ないよね。君は白くて羨ましいよ」

 順番がそろそろというところで、店員がメニューを持って来た。

「うーん、洋梨も気になるな。でもな、ここは桃も捨てがたい。自分の名前に掛けてないよ。桃は元々好きだもんね」


 そう穂信は悩んでいた。

 

 穂信の順番が来た。私は穂信を押し除けて店員さんに「洋梨と桃を一つずつ」と、オーダーした。


「ちょいちょい、ニシちゃんの希望は?」


「私も食べたいと思ったので」

 顔が赤くなりそうなのを私は必死で我慢しようとした。背けた顔を悟られたくないと思って、主導権を握ろうと思っていた。


「お二人はお友達?」


「そうなんですよ。今日は一緒に遊びに来て」

 へへへと、ごまかす穂信にちょっとムカついた。

 意識するとダメだ。耳の後ろの汗や暑さで少しまぶしい日差しを手でさえぎる手首の細さ、ジェラートを受け取って喜ぶ子どもの様な純粋な笑み。


 意識しちゃダメだ。


「はい、桃」


「どうも」


「あれ? 食べないの?」


「いただきます」


「さっきうっかり付き合ってますって言いかけたよ。危ないよね。仮だもん、本カノ子じゃないのにね」


 ダメ、ここは冷静に、でもそうやって高等部の先輩をたぶらかしている行為にひたってうれしくなってない? そんなことないよ!


「食べないならそっちから食べちゃる」

 頭がー。と、言って押さえてる額の近くにあったスプーンを取り上げた。そして、まだ食べてない洋梨のジェラートの上を少しすくって穂信の口元へ差し出した。


「え、なっ」


「デートでしょ? あーん」


「みんな見てるよ」

 小声で話す穂信が可愛い。


「友達でもあーんはします」

 言われて穂信は口を開けた。


「美味しいよ! じゃ、今度は桃。あーん」

 させられると少し恥ずかしい。


 ジェラートを食べて、少し遊んでると夕方になった


「帰ろっか」

 駅まで帰る途中にお母さんから、連絡が入った。


「今日はお姉ちゃんと外泊です。お父さんも泊まりだから、どこかで食べてきなさい」

 ふいに画面を覗かれて、ほーん。と、穂信は口に出した。


「ウチくる?」


「変なことはなしでお言葉に甘えて」


「やったぁ」

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