第15話 お呼ばれ記念日

 そんなに先輩が好きなら皆さんが先輩と付き合えばいいのに。

 声が漏れたのを知ったのは頬を叩かれた後だった。


 私、何をしたの? 先輩と健全なデートをして、一緒にお風呂入ってちょっとイチャイチャしたけど、漫画みたいなことをしていない。



 きっとみんなみたいにまでしてない。



 私は怒りで目の前の子に掴み掛かった。叩いたのは誰かとかそんな判断は出来なかった。ただ、声を荒らげて叫んで掴みかかった。



 誰かが呼んだ先生に止められるまでそれは続いた。



「申し訳ございませんでした」

 お母さんが来るとは思っていなかった。


「ごめんね」


「あなたが怒るって珍しいものね。いじめられたの?」


「いや単純で難しいことだよ」

 どこかで聞いた何かだ。


「それは難題って言うのよ」

 難題か。

「恋?」


「近いようで遠く、遠いようで近い」


「私が逢坂女子の中等部だった頃にね」


「え? お母さんも逢坂だったの!」

「それだから行かせているのよ。卒業生割引あるしね。偏差値的にもちょうど良くて、特にやりたいこともなさそうだったし」


 そうなんだ。


「女の子だらけだから酷いもんで、大会で脇の出る衣装なのに剃るの忘れて授業中に抜いたり、靴のにおいで誰のか当てる遊びをしたりしたものよ」

 今とさほど変わらない。


「それでね。女の子からモテる女の子がいてね。高等部の子で、もう告白する女の子全員手玉に取って好きなようにしてた悪い女の子。ある日ね、その子が中等部の女の子に恋をするの。中等部の女の子は高等部の女の子に遊ばれてるって思って」


「いつの時代も変わらないね」


「心を見るの。嫌な事は絶対に嫌って言って、中途半端に流されてはダメなの。流されたら自分だけじゃ無くて相手も傷つけるの」

 もしかしてこれはお母さんの体験談? そう聞こうとして、お母さんの方を見た。

「今日はお呼ばれ記念日だからステーキにしましょう」

 と、言っていた。



 お呼ばれ記念日ってなんだ。



「えっ、あんた。親呼ばれたの? 中等部なのに? お呼ばれ記念日じゃん」

「お呼ばれ記念日は早く来たな。お姉ちゃんでも高等部だったよ」

 お父さんまで。


「今日はお呼ばれ記念日なので、ステーキです」


「たまにお呼ばれしてね。鍋シーズンはてっちりになるからね」


「お姉ちゃんみたいに確信犯お呼ばれ記念日だけはやめてね」

 冷たいお母さんの言葉にお姉ちゃんは目をそらした。


「加奈、文化祭実行委員会なんでしょ?」


「一応、今のところは」


「気をつけなさいよ。校舎のあちこちで男女のエチエチに遭遇そうぐうするから」


「エチエチって何?」


「文化祭フィナーレ。想い人と手を繋いでキャンプファイヤーを見るとずっと一緒ってやつ。でも大体みんな暴走するけど」

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