第14話 泣き声

 夜、何か音がして目を覚ました。ぐすぐすと声が聞こえた。寝ぼけながら起き上がると体を丸めて泣いていた。


「穂信」


「来ないで!」

 明らかな拒絶だった。

「ああいうこと気持ち悪いって思ったんでしょ? 体舐めさせておいて、あんな激しく拒絶するなんて酷いよ」


「穂信が嫌いとかそんなのじゃ、だって変なことはしないって」

 でもそういう風に持って行ったのは穂信ではないですか。


「そうよね。仮ってほとんど友達だよね。元カノ子と遊びながら加奈と付き合えば良かったよね。ごめんね。気を使わせて、中学生にこんなんじゃダメだよね。結局約束も破ったし気持ち悪いよね」


 友達と遊びに行くテンションではあった。


 確かにそれはそうだ。穂信と遊びたいとは思うけど、特別では無い。


 お風呂前の妹と言う言葉に感じた含みの正体も分かった。思えば、お兄さんの反応もそうだ。


 多分、穂信はずっと色々な人を家に呼んで特別をたくさんの人にして、ひどいやり方で振って、気を持たせようとグループを作った。守られたハーレムで好きな人とする。


 そういう酷い人だ。ざまぁ、見ろという気持ちより、なんて可哀想な人なんだろと思った。そういうふうにしないと人間関係が築けないんだ。


「私、始発で帰ります」


「待って、加奈。そんなつもりじゃ」


「お世話になりました。桃谷先輩、昨日楽しかったです。あんな風にたくさんお話ししていたかった」


「穂信って呼んでよ。私のこともっと見てよ」


 なんて弱く哀れでみにくい人だこと。今日の思い出が頭に浮かんだ。昼の穂信とまた遊びたかったな。夜の桃谷さんは嫌いだ。


「地図のアプリがあるので駅まで帰ることが出来ます。お世話になりました。さようなら」

 家から出ても追いかけて来なかった。


 私はすごくひどい女の子だ。


 でも桃谷先輩のいう通り気持ち悪かった。そういうことを今したいとは思わない。


 さよなら先輩。明日からはただの先輩と後輩です。



「さ、今日も頑張るぞ!」

 この人が励ます言葉を言うときは何かあった時だということはみんなの共通認識で、私と別れた宣言をして元カノ子とするんだろうなと思った。


「ねぇ、あなた」

 呼び出されて行った備品室で囲まれた。そうか、もう桃谷先輩の庇護ひごの下ではないのだ。こういう詰められ方は想像しておかないといけなかった。


「何があったの?」

 思っているより優しい声だった。それに私は驚いた。


「別に」

 何の事かは容易に想像が出来た。無性にイライラした。


「あなたと別れたと思って暴走した元カノ子が桃谷先輩に」

 私、諦めることが出来ない子がいるからごめんね。


 聞けば桃谷穂信は告白されたら有無を言わさず肉体関係になって、相手が中毒になった途端に別れることを繰り返していたそうだ。



 知れば知るほど酷い女だ。



「私たちは桃谷先輩が幸せになって」

 ここに自分の味方はそもそも居ない。


 態度が冷たいか、お節介おせっかいかだけで、みんな桃谷先輩の物。


 怖いな、桃谷穂信って女の子。

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