第33話 ハッピーエンド

「さて、今年もやって参りました体育祭。帰ってきた桃谷穂信と仁科加奈のバカップルは何を見せてくれるのでしょうか? 聞くところによると一日目はずっとイチャイチャして回っていたとのこと。私もこの際、女で」

「ということでちゃんと放送しろと言われたので、宣誓からどうぞ」


 文化祭実行委員会は穂信復帰の体育祭を楽しく終わらせる為に私の権限で無理やり放送席へ高窓先輩を招聘しょうへいした。


「では中等部三年の井方遥いがたはるかさんと高等部三年の真川まがわさやかさんどうぞ」


「私たちはスポーツマンシップに則り、正々堂々と競技に取り組み」

「みんな僕の勇姿を見ていてね。桃谷穂信なんて目じゃないよ」


 一部から上がる悲鳴。


「残念だったわね。穂信天下は入院しているうちに終わったのだよ。各自で体操してくださいね。さてさて、まずは徒競走第一走者はこれは際物揃いだな」


「全部終わったよ。お腹減った」


「お母さんが多めに作ったお重を食べ切った穂信が言うな」


「だって、加奈のお母さんのお弁当美味しかったんだもん」


「ご自分の作った料理と比べて」


「うーん、ちょっとお弁当がリード」

 ため息をついた。不満だな。もう少しどうにかならないかな。


「帰ろっか」


「パジャマ持ってません」


「ほほぅ? 泊まる気でおったのか」


「まぁ、そういうことにしますね」


「おっ、開き直りか?」

 こうやってずっと卒業まで続いて過ごしていければいいな。葉っぱの赤く染まり出した通学路をジャージでゆっくり歩き出した。


「あ! そうだよ。言ってもらってない!」


「何ですか?」

 何を言わされるのか私はソワソワした。


「君は私のことどう思っている」


「案外、背中が温かくて、すべすべ」


「違う! そんな肉体的なソレでは無くその」

 尻すぼみに穂信の声が小さくなる。


「好きって言ってもらってない」


「そんなの穂信だって」


「私は言ったよ」


「それは女の子たちにでしょ?」


「うぐっ」


「私は言いました」


「体育祭で私の物って言っただけで、好きとは言われてない」


「私は穂信がす…」

 この人は全く調子に乗ってさ。何の恨みがあるっていうの? 可愛いし、恥ずかしいな。


「ん? 何、ワンスモア?」


「私は穂信が好きです」

 くちびるの先が少しとがった。少し声も静かになる。


「私は君が好きだよ。きっと君が思っているよりね」

 ゆったりと締めつけないくらいのハグをされた。


「重めですね」


「いや?」


「いえ、問題は無いです」


「じゃ、襲っちゃえ」


「キスはダメです。公道だし」


「人いないよ」


「汗臭いし」


「私、加奈の汗のにおい好きだよ」


「変態」


 それから私たちは何も大きなトラブルには巻き込まれなかった。トレーニングと称して、温泉旅行に行き、ショッピングモールにも行った。遠慮しなくていいというのに車を出してくれた親たちは部屋を別に取った。そのせいでえらい目にあった。


「お尻、試してみる?」

 次に触ったら別れると言った。


 勉強をしようと言って集まったのに穂信が我慢出来なくて、私は悪くないのに学校以外での接触が禁止になった。


 それでもそれぞれが寂しいだけで、大きな変化は無かった。勉強に集中してたまにメッセを送る生活。

 穂信は家で真冬なのに手のひらサイズの飛びゴキブリに襲われて、私は修学旅行のお風呂で井上がおならした瞬間に色々出てしまったくらい。


 穂信はハンカチをずっと使ってくれていた。絆が出来たみたいで嬉しかった。

 他の女の子も近寄らないようになったので、マーキングの狙いは大成功だった。


 穂信は女子大に進学した。


「来年キャンパスで会おう」

 と、言われたら火がつく。来年はちゃんと大人として、キャンパスの中を穂信と歩きたい。



「もー、待ちくたびれたよ」

 ここからは私と穂信の未来の話。

「お祝いはパーとしよう。レッツパーリナイッ」

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