第20話 初恋の相手

「ケンちゃん、来るよ。アンタの抱きフレの」


「なんで? お姉ちゃん、どうして来るの?」

 多分、お姉ちゃんへの目は冷たい。


「バイト先ケンちゃんの家がやってるコンビニでさ、これはマジの偶然。最近失恋したっぽくてって言ったら、僕の入る隙間ありますかねって言われたから、もう来るよ」


「今から電話しなさい。来ないように」

 お母さんの声に殺気がこもっている。


「迷子のお知らせです。西三条町の市場健一さんが、彼女? やめときなってこの学校で一番怖い女の彼女だよ。さっき成敗されたけどさ、いいんだね? その仁科加奈さんの恋人の? 方が放送席でお待ちです。来たくないと思うけど厚かましくて仕方ない。迷惑です。早く帰れ、あーもううるさいー」

 ゲラゲラと沸く昼休み、そりゃ他人事ひとごとだもん。


「お姉ちゃん行ってきて責任取って」

 ごめんねと肩拝みして放送席に向かった。


「業務連絡です。さっきの恋人によく知らない女性が掴み掛かってます。仁科の姉貴だと言いますが身分証明書が無いので今のところ不審人物です。助けてください。以上です」

 みんなはさっきの放送から笑いっぱなしだ。恥ずかしいったらありゃしない。


「ここは彼女の私が行ってくるね。任せてね!」

 多分、失敗するんだろうな。


 放送のマイクがオンになった。


「仁科さんさ、もう来てよ。無理だよ、あのね覚悟することになるから言うけど、市場ってやつはずっと姉貴ってやつに仁科に会わせろ。加奈の初恋は俺のものだって馬鹿なこと言っているんだ。姉貴もさ譲らないの出ていけって言ってるけど、市場も姉貴も一緒。それでアンタの本カノ子もさ、分別のつかない中等部の憧れ組が取り巻いてさ。お願い。先生たちは察してどっか行くし、マジでお願い」

 休憩中の生徒たちは気ままなものでゲラゲラ笑っている。いいぞ仁科、次は親か? と、声も上がってる。


「もうあの子達仕方ないわね。私が一発」


「いい、行くからお母さんでダメだったら誰が守るのこのお弁当」


「そうね。気をつけて」

 放送席に行くと縦にも横にも大きいケンちゃんがお姉ちゃんと睨み合っているし、穂信は中等部の子達にお姉様と呼ばれて迫られている。



「実況するね」


「恥ずかしくて明日から学校行けません」


「かなり迷惑被ったので、迷惑料として」


「わかりました」


「役者は揃った。まず一人目仁科加奈の幼稚園の頃の初恋相手市場選手、その市場に妹が失恋したといういらない情報を流した仁科姉選手、そして現在の仁科の本カノ子桃谷穂信選手、最後に市場に今になって交際を求められて、姉に情報を流された、おそらく調子に乗った桃谷選手を一番邪魔だと思っている仁科加奈選手」


「私、邪魔?」


「中等部を連れて帰ってください」


「今、私。仁科加奈さんとお付き合いしてるの。だからあなたたちの好意は関心ないし、振り向くことも無い」


「お、これ以上被害者を出さない為か、ちゃんと配慮出来てすごいね。流石だね。出来ればあと二年くらい早く出来ていれば良かったね」


「高窓うるさい」


「怒られたので、次に行きます。それで市場君は何を想っていたのかな?」


「絶対に加奈は僕と付き合います。僕が欲しいと思ったものは手に入れてきました」


「ちなみに何を」


「高校生にタックルされても跳ね返す力と強い心です」


「ほうほう、あとは?」


「全国模試一位の座です」


「仁科加奈よ、結構優良物件じゃね?」

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