新章 大学編

穂信とのたくさんの初めて

第34話 初めての動物園

「みてみて! こっちにゾウさんがいるよー。本当にパオーンって鳴くのかな。餌やりしてみたいな」

 穂信と同じ意見では無かったが、私は大人になって、穂信の意見に従った。


「ゾウばかりだと損ですよ。ペンギンに行きましょう」


「ふむふむ、そうか。お主ペンギンさんの方が好きだな。こんなこと名探偵穂信さんは察したぞ」


 そうじゃない、動物臭が和らぐからだ。

 穂信には言っていないが獣臭は正直苦手だ。でも穂信を嫌な気持ちにさせたくない!


「ごめんね。無理言って」

 穂信は察したのだろう。


「いやいや、そんな」


「適当に見て帰ろうか」


「あの大きな網の中を見てみたいです」


「鳥か。臭いは薄そうだな、行こっか」

 そういう期待と希望に満ちた表情で私の隣にいて欲しい。


「ペリカンさんはいないようだね」


「ペリカン舎は外です」


「鳥さんが水浴びしてる。むむむ、餌はあれか。いいな、鳥はいるだけでご飯を食べることが出来て、私は仕送りで生きているよ。不労所得では同じか。私は今日からお前らと一緒だよー!」


「恥ずかしいからやめてください」


「はいはい、やめますよーだ。べー」

 古典的な反抗をして、鳥舎を出た。


「イルカショーだったら、獣の香りしないでしょ?」

 今は夏だ。穂信の事だから。


「やっぱり最前列はいいね! ばしゃーんでばーんしてざーだもんね! ぼーんな水もいっぱい。これでシャワーは浴びたよね」

 語彙力は高校から変わっていない。


 濡れた穂信を直視出来ない。見てもいいが、他の人に見られたくない。こういう時の為に持ってきた訳ではないスポーツタオルを穂信に差し出した。


「水に濡れるのは苦痛ではないぞよ。ププ、まさかこれくらいのシャワーで」


「拭いてください。今の穂信を他の人に見られたくありません」

 穂信は自分の惨状を見た。


「なるほどこれは厄介だ。少し歩こう。そのうち乾くだろう」


 私が大学に入る頃には穂信の友達の教育のお陰で対男性のスキルは身に付けつつある。

 だから今日みたいに、透けているのが分かっても気にしなくなった。

 でもその友達と穂信が一緒に笑っているとムカムカする。


「あー、また何か考えていているの? もしかして、わたし?」


「別に」


「シャチショーだよ! 次こそは濡れないぞ。おー!」


 濡れた。


「最前列は今度からやめてください」


「えー、私は平気だよ。何がダメなのさ」


「私が、私が嫌なんです。他の男の人に見られるのが」


 相当、恥ずかしい事を言っているのは分かる。顔は赤くなっていることだろう。

「大丈夫だよ。変な男がいなさそうなキャピキャピコースで歩いているし、人通りの多いところで座って乾かそ。私の事、大事にしてくれてありがとう。大好きだよ」


 全くこの人は本当にずるい。


 大好きって言われたら、こっちだって大好きがあふれてきちゃう。

 思わず抱きしめてしまった。

「おーい、乾かないぞ」


「帰ったら覚悟してくださいね。今日は泊まりますから」


「言ったな。百戦錬磨の穂信様に勝負を挑むなら」


「穂信は多分大学で派手な事をしていないので勝ち筋は!」


 全く無かった。

 

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