第35話 初めての花火大会
「お主、射的は好きか?」
「水飴食べるんでしょ?」
「えーん、加奈お母さんみたいだよ」
近しい関係性と思えば嬉しい限りなのでついニヤついてしまう。
「こんなところでお金使ったら帰りのお金無くなります」
「ダメ?」
そんな甘い声を聞かされたら、ダメ。許してしまう。
「射的とご飯なら」
見ずともパーっとして顔が明るくなったことが分かる。
「じゃあさ、景品貰えそうな射的を一緒に探そ。どこにしよっか。あそこめちゃくちゃ人がいるよ!」
「あんまり散財しすぎないように」
「やっぱお母さんだよね」
花火大会に行こうと提案したのは穂信だった。海に行く予定もあったが、それはみんなも行くし、私は加奈と過ごす日あってもいいと思うな。どう?
「的当てもしたいし、金魚も釣りたいー」
「馬鹿ですか。そんなたくさんしたら、お金無くなります」
非難の声を上げる穂信が私の腕を自分の胸元に引き寄せた。
「加奈のケチ。ちょっとお祭り楽しんでもいいじゃん」
「こんなところで立ち止まったら、危ないです」
「せっかく二人っきりで来たのにさ、お金なら仕送りもあるから、心配いらないの?」
「でも帰りのお金は」
「私は加奈と今、楽しく過ごしたいな。ということで、ヨーヨー釣りしようか!」
「ヨーヨーは家に持ち帰ってどうするんですか?」
「こういう時の思い出って結構大切なんだよ! 好きな人とのヨーヨー釣り、好きな人との射的、一緒に食べたアイスクリームにりんご飴。どれも尊くて最高の思い出。そういうのを作っていこうよ。お金無いならちょっとだったら大丈夫だよ。もう高校生じゃないからさ」
お金があって、忙しく無い。
なんだか本当に特別な物は高校生のあの瞬間で、そればかり気にして、確かに楽しむ事を忘れていた。それが穂信の言う尊い思い出なのだろう。
振り返って穂信の顔を見た。
「ぱふぁおひふおひふ」
穂信の頬は丸く膨らんでいた。スピードが落ちたタイミングはあったが、それはもうたくさんのご飯がビニール袋に入っていた。不本意ながらお茶を渡した。
「セット割ってシステムがあってね。加奈が可愛いって! 私も可愛いって言われたけど、やっぱり加奈が褒められると嬉しいといいますか」
「花火見に行きますよ」
「きれいに見える場所知ってるよ」
「カップルのエチエチな場所じゃないですよね」
「やっぱりそういうのは自分たちの世界に入れば気にしないよ」
「私はそういうところでは無いところでしたいです」
ばーんと花火が上がった。
「始まったね」
「始まりましたね」
音だけしか聞こえなかった。混雑から抜けた時には花火は見えないところだった。
再び花火を見に混雑に入る気力が無くて、まだ空いている電車に乗った。
「結局、残った記憶は穂信がたこ焼きとお好み焼きを袋の中でぐちゃぐちゃにして、浴衣を汚した。人形焼きもその中に」
「面目ない」
帰り道の電車の中、持ってきたティッシュでソースを拭いた。
「ごめんなさい」
泣きそうな穂信に私汚れていない方の手で穂信の頭に触れた。
「でも、来年はもっと楽しい花火大会になりますよね」
「後輩のくせに生意気だぞ」
「こんな時くらいいいでしょ」
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