第36話 初めてのプール

「レディース&アンド、レディース」


「もう考えないで話し出すから」


「だって女の子しかいないもん」


「大体、そんなことしなくても私と穂信の共通の人しかいません」


「あの、私たちは何を見せられているのだろうか」


「うち高窓さんと気ぃ合いそうやわ」


「本当に今宮さんがいて良かった。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしゅう」


「大体、穂信のせいでこっちの友達呼べないんですからね」


「いいじゃん、呼ぼうよ。そこで言えるよ。穂信は私の物ですって」


「そんなこと言ったら、前にうちの部屋に来た時に裸で」


「あーもうその時の話は時効よ。恥ずかしいこと言わな」

 いがおそらくいえなかった。高窓さんが鉄拳でゴっと鳴った重低音。

「おい、お前。大学でも同じ過ち起こしたそうやないけ?」


「い、いや。その加奈が入ってくる前の下地というかなんというか」


と遊ぶのになんでこんなに集まり悪いんだ? 私としては今宮さんだけでデートしていいんだぞ」


「その件は交友関係を広める為に二人っきりでプールをしてですな」


「そのデートをして、いくつのプールを出禁になった?」


「そ、それはですね」


「で、彼女としてはどうした?」

 後ろで今宮さんが欠伸をしている。


「受験もありましたが一月から半年間、禁欲してもらいました。一か月に一回立ち入り調査に入って」


「そもそも仁科から聞いた話やと」

 言ってもいいか? と、目がきいた。人気も無かったので静かにうなずいた。


 私が一生懸命に勉強している間、ちょくちょく気分転換を手伝ってくれた。もー、カツラが取れた先生がさ普通に授業しててさ。そんなくだらない話を休日に半日くらいして家に帰って勉強する。

 学校が休みの時は受験勉強に付き合ってくれた。おかしいとは思っていたのだ。性欲魔人の穂信がこんなに何もしてこないなんて、その時の私は我慢してくれているんだと、ときめいた。

 友達と訓練しているって言っていたもんね。そう能天気なことを考えていた。

 転機が訪れたのは受験勉強真っ只中の十二月。


「おー、寒いね。冬は寒いよね」

 見たことないキーホルダーがついた穂信の化粧ポーチ。


「なんですか。それ」

 そして今に至る。


「ま、彼女のには正直に話すやろな。そりゃ彼女失う方が怖いもんな」

 高窓さんが考察している後ろで今宮さんは体を伸ばしている。


 確かにトレーニングは成功していた。男の人と話せるようになった。穂信はそんな中でもお触りを繰り返した。

 二人っきりのプールでもお触り、女の子に気を持たせて「私、付き合っている子がいるの、ごめんね」と言って断ったのに、せめてこのキーホルダーを。

 と、言われて押し付けられたの。そう聞いて強めの張り手をして「待って、置いてかないで」と言われた。


「それで桃谷はどうしていたの?」


「土下座で謝られましたが、クズがって言い捨てて」

 合格しても入学してもオリエンテーションがあっても勧誘があっても。行くけど穂信に誘われても応じない。これで飽きられたら仕方ないかと思った六月のある日。手に触れられたんです。


「ごめんね。私、自分の性欲のままに動いていた。もうこんなことしないから、許して、ごめんなさい」


「それで仁科はなんて言ったの?」


「私だけを見て、私以外には触りに行かないでくださいって言いました」


「このバカップルが!」


「ねぇもうここで何分使うの? いつプール行くの?」

 今宮さんは携帯を触りながら迷惑そうに言った。

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