穂信の大切なもの

第46話 立ち会い

 今日、穂信の運命がやってくる。


「穂信。久しぶり」

 黒いライダースーツの茶髪の女性が現れた。驚いた。私が知っている女性経歴とは全く違うタイプだった。


 今までは黒髪で、穂信より隙がありそうな女の子が多かった。これほどまでにサバサバしている人は初めてだ。


「初めましてこんにちは仁科加奈と申します」


「私は藤堂高子とうどうたかこ、逢坂の子?」


「はい、そうです」


「穂信の友達?」


「本カノ子です」

 隣からあんなに台本通りに言ってと言ったのに。そんな恨み節が聞こえてきそうだった。


「そうか。私は本カノ子から女の子を取り上げるんだな。心配するな、一ヶ月だけだ」


「一ヶ月っていうのはどういう」


「高窓がお願い一ヶ月だけでいいからってうるさいんだ。先輩と本カノ子になってあげてくださいってか。そういうは逢坂に置いてきた。おうおう、怒るなよ。穂信もしたはずだ」

 穂信の方へ目を向けた。とても苦しそうな目をしていた。これからの一ヶ月で穂信の何かが終わる。


「お前も性格悪いよな。高校の時の私とそっくりだ。鏡のように思えて、悲しくなるよ」


「なんでそんなこと言うんですか。きっかけは藤堂さんが」


「私はね、穂信に一生を預けたわけじゃないんだ。そこの加奈ちゃんは穂信に預けているみたいだけど、目に入らなかった?」


「藤堂さんと比べたらそんな」


「選びなさい。一ヶ月の間私に漬け込まれるか。加奈ちゃんを選ぶか。即決してもいい判断だが、様子を見よう。私は性格が悪いんだ。穂信と同じくね。加奈ちゃんごめんね」

 そう言って藤堂さんはヘルメットを被りファミレスを出て行った。


「行かないよ」


「後悔しない選択をしてください。明日から穂信に選ばれなくても私は平気です。穂信がこれから生きていくのに悲しくなって取り返しのつかない選択をしてほしくない」


「ありがとう。今日のお金置いていくね」

 そう言って穂信は静かに去って行った。


 私は流れそうな涙をのんだ。


 家に帰っても悲しさは変わらなかった。いつか来る日だった。何度も流して、何でも越えた涙。

 迷わずに加奈が一番って言って欲しかった。それが叶わないのに、私は私の全てを穂信に押し付けて依存してきた。


 私の勝手。


 明日にでも藤堂さんの前から「やっぱり加奈がいい」と言い捨てて帰って来るのだ。

 でも二週間、待てども待てども穂信は帰って来なかった。

 寒いテスト期間が明けても穂信からの着信は無くて、藤堂さんが穂信を連れ去った。いや穂信が選択をした。それだけだった。


「加奈ちゃん、おひさ」


「今宮さん」

 レポートを提出しに来た日、部室に寄る予定だった。だから、ボラ部の部室で待っていればいいはずだ。 


「寒い?」


「少し寒いけど、大丈夫です」


「じゃ、少し歩こうか」


「聞いたんですね」


「そうだね。それでさ、相談なんだけどね」


「なんですか?」


「我らが姫、桃谷穂信を救出しに行かない?」


「行けません」


「なんで?」


「だって穂信の選択ですよ」


「藤堂さんはこんな時に来て、さっさと連れ去った女よ」


「分かりました。一先ず、話を聞きましょう。あの人に」


「誰?」


「そそのかした。高窓先輩です」

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