第45話 初詣

「一度はこうご無体なーっていうのやってみたいんだよね。加奈はどう思う」

 地元のお寺はよく混んでいた。慣れない足元もお互いがお互いに可愛いと言ってもらいたいと思って、レンタルしたものだ。


 まだ穂信は可愛いって言ってくれない。分かっている向こうもこちらに可愛いと言ってくれないことを。


「来世はちゃんと答えてくれる女の子と付き合いたいな」


 ちらっ。


「素直に答えられるようになるには親切で性欲をコントロール出来る女の子がそばにいないとな」


 ちらっ。


「こう言えないのかな。簡単な事だよ。誰の為にお菓子を我慢したか」


 ちらっ。


「お菓子は普段バクバク食べるものではないです。こっちだって炭水化物は少し減らしました」


 ちらっ。


 こういう牽制のし合いを一時間は続けてる。穂信の薬指には指輪が煌めき、私の首元にはネックレスが光っている。


「可愛いね」

 え、いやいや。そんなわけない。穂信が私を可愛いなんて。


「その着物可愛いね。加奈によく似合っているよ」

 呆然とした頭で、私は思わず。


「穂信の方が可愛いです」

 と、言った。


「最初からこうすれば良かったのにね。それすら気が付かなかったや。人の来ないところに行こう」


「ちょ、ちょ」


「変なことはしないよ。約束をしたいの」


「約束?」


「家族のいない日に私の体を加奈の好きにさせてあげる」


「っ、でも」


「分かっているんだ。多分、加奈の言う大切だとか、繋がりだとか。そういうのじゃないのは分かっている。でもさ、ちゃんと身体的にも深く繋がりたいといいますか」


 なんで、とか。どうして、とか。そういう理屈ではなかった。でもこうも焦り出すと察してしまう自分が憎かった。気づきたくないのに穂信は私を見ているようで遠くを見ていた。


 

 高窓さんがあの体育祭の時点でと言った二年前は中学三年生の時だ。

 私と同じく、くじ引きで決まった線は濃い。


「にゃははは、バレたか」

 そんな悲壮感いっぱいで言われたら、私は何もいえない。勝手にしておいて、今さら本当に好きな人がいましたなんてふざけているなんていえない。


 私はただ穂信の肩を抱いた。


「その人は」


「加奈とした恋は本当で本当に大切だけど同時に一番では無い。その人には違う人たちがいて、その違う人たちの目を誤魔化して一ヶ月会ってくれるの」


 私は自然と穂信を抱きしめる力が強まった。


「その前に加奈からの特別が欲しい」 


「考えさせてください。今はとにかく初詣でしょ」


「うん、分かった」

 正直、よく覚えていない。


 本カノ子であろうと何だろうと最初から出来レースだったのだ。は最初からずっといて、の欲望をごまかす為には使われてきた。


「ったく、朝に帰ってきて正月なのにそんなに暗いと一年も悪くなる。で、どんな悩みだ?」


「別に何も言ってないわよ」

 姉のチャチャ入れには慣れていたが、今は少し苦しい。


「お姉ちゃんに話してみな」

 石ころよりかは役に立つだろう。

「要はあんたがその子の事が好きで、その子はそもそもそんな事は自分の傷を癒す為。別れろまともなやつじゃない」


「そんなこと出来たらとっくに」


「分かった。それなら、もっといい女になって、そいつの前で盛大に振ってやれ」


「そんな」


「今のままじゃあんたはある意味で都合のいい女だ」

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