第8話 憧れだけは許してください

「私たち相談しました。いくら相談してもやっぱり桃谷先輩のことは好きです。でもみんな仁科さんとお付き合いをしたい桃谷先輩と私たちが仁科さんにレクチャー出来ることはあるのでは無いかと」


 つまり情報屋の仕事はするから置いてくれって事か。


「私、あなたたちの事を好きにならないけど、いいの?」


「憧れを許してくださるなら」


「分かった。ニシちゃんはいい?」


「問題無いです」


「仁科さん、桃谷先輩の誕生日は九月の三十日です。物はお菓子だと喜びます。私たちはGODIVAのチョコレートを差し上げておりましたが、モロゾフのりんごチョコレートが好きみたいです」


「やり辛い」

 穂信はつぶやいた。ざまあみろ。


「本カノ子じゃないんで、しばらくお預けします」


「そんなぁ」


「正座はいいです。仕事もたくさんあるんで、みんなで進めましょう」

 みんな頷いて、それぞれが作業を始めた。


 他の担当も少しずつ集まっていて、作業も段々と進んでいるらしい。ただ前の人数に届かない現実もあるようだ。

 

 整理される書類、ご近所さんへ説明やキャンプファイヤーをする為、消防署との確認をする時には穂信と仕事をした。



「ねぇ、チューだけでもさぁ」


「ダメです。仕事中なので」


「お預けくらって我慢できないよ。いつ本カノ子に昇格する? もうチューでは収まらないよ」


「チューでいいなら」


「ホント? 濃ゆいやつでいい?」


「濃いって?」


「お姉さんに任せなさい。まずは公園の隅でと、目をつぶって」

 連れられた公園に入り、不安でいっぱいだった。


 口先に触れる唇柔らかくて驚いた。すぐ近くで穂信の香りがした。すごく優しいキスだった。だが、それだけでは終わらない。閉じられた唇を強引に舌で開かれ、口腔内に穂信の感触が入ってきた。びっくりして、怖かった。


 穂信を突き放した。穂信の戸惑った表情を見て、傷つけた事を知った。でも怖い、なんだか何か大きな物を失ったみたいで、苦しかった。


「初めてでした。失礼します」

 話す機会のないまま九月を迎えた。


「文化祭まであと一ヶ月半、しまって行くぞ」

 みんな空元気なのは感じているようだ。


「どうしたんですか? 仁科さん」

 総務のメンバーにごまかし笑いしかなかった。キスされて逃げたとは言えない。


「ニシちゃん、ちょっと」

 意を決したような穂信に誘われるまま廊下に出た。


「この前は無理やりでごめんね。そのそういうのは無しで一度遊びに行かない?」


「どこに?」


「その美術館とか」


「そのキスは」


「分かってる。しないから」

 穂信が勇気を振り絞って言うのでこちらも拒否きょひの姿勢はとれない。何よりも興味があった。穂信がどんなものが好きか。


「行きます」


「じゃ、今度の土曜日駅前のスタバの前で来てね。出来ればおしゃれな服を着てもいいけど、どうせならジャージで来てお互いきっとサイズは近いし、着せ替えごっことか。そのデートとかしてみたいな」


「分かりました。楽しみにしています」


「よっしゃ! 気合入ってきたぞ」

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