第29話 ベーコンエッグ?

 インターフォンを鳴らしたのはゴールデンウィークの始まりだった。


「今、開けるね」

 ゴールデンウィークはずっといるといいよ。と、穂信の親御さんは言っていた。その間に家族旅行をするらしい。

「お兄ちゃんなりに気をつかって、彼女作って出て行ったし、お父さんとは別居しているからノーストレスだけど、一人は寂しいから良かった。入って」


「お邪魔します」


「もうそんなに緊張しないでこっちもドキドキしちゃう。この前スマブラ買ってもらったんだけど、


「やります」

 ダメだ。意味深に聞こえる。


「へぇ、強いね」


「お姉ちゃんめちゃ強なんで、慣れちゃって」


「メタナイトまで解禁になったよ」


「お昼食べてきた? 何か作ろうか?」


「私が作ります」


「たまには振る舞いたいじゃん、任せてベーコンエッグとサラダくらい作れるよ。練習したもん」

 えっと、ブロッコリーを茹でて、これは泡が出てから入れるのかな。

 入れて三十秒でザルに流す。

 卵ってどうやったら破れるんだっけ、握力で殻が入ったな、いっか。

 ベーコンはそのまま入れて、油ってこれで良かったよね。あ、たぷたぷになっちゃった。

 

「やっぱり私が」


「出来た」

 皿に出されたのはレタス二枚とブロッコリーの塊、生焼けのベーコンの上に卵と殻が入っているであろうベーコンエッグ。


「いただきます」


「どうぞ」

 口腔内でシャリっと音がした。これはちょっと美味しく無いといえばいいのか、それとも美味しいと褒めればいいのか。


「美味しい?」


「食べられる程度には」


「よかった! みんなも少しだけ食べてくれるから、ちょっとは上達したんだね。野菜も食べてみてよ」


 塩茹ですらされていない大きなブロッコリー。


「私、ブロッコリーはクタクタになるまで調理しないと食べられなくて」


「そうなの? 変わっているね」

 今変わった。もうあとには引けぬ。


「レタス食べて欲しいなぁ」

 穂信は期待してこちらをみている。

 ガリっとした。


「洗った?」


「野菜は生の方が美味しいって聞いたから」


「そこで座ってて」


「足りなかった?」

 冷蔵庫の卵とベーコンの在庫を調べた。充分にある。フライパンをキッチンペーパーで拭い。油を新しくひいた。

 さっき断ったブロッコリーはちゃんと一口大に切って、沸騰した湯の中に入れた。少しの塩も忘れない。ベーコンが仕上がって…。


「なんで目隠し?」


「食べ比べの意味がないから、まずは一番目あーん」


「おっ、これは美味しいぞ。ベーコンはカリカリだし、卵もいい感じだ」


「では二番目」


「これも美味しいな、学校の給食みたい。二番目の方が美味しいな」

 外してと取ってもらった。


「こっちが私が作ったやつ、これが穂信が作ったやつ。どっちが美味しい?」


「こっち!」

 私の料理が穂信に完敗。すごい悔しい。学校の給食にも失礼だ。


「ブロッコリーも私が茹でるので正解だね。歯応えもある」

 ブロッコリーは本来歯応えはありません。

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