第38話 初めての学園祭

 平和な学園祭。女子大なので変な危ない男が来ないように大人は増員された。


 私のうわごとで決まった体育祭で高窓さんを呼べるはずもない。結局流れた。

 

 この学園祭においてたまに「えーとペンネーム加奈大好きっ子さんの投稿です。今日多いなこの人」と、学園内にラジオが流れて「どこが好き?」ということを聞いた穂信に私が「全部ちゅき」と言った音声が流れる。


「この人って何者だよ。何回流させる気だ。え、なに熊谷心当たりがあるの? 二年の桃谷穂信。あ、あー。あれか。この学園祭にいらっしゃる女性の方々に宣言します。桃谷穂信はたらしなので近づかないように」


 これを何度も繰り返した。もし私が放送局の部屋を見つけていたら、ドアを蹴破って止めたのにどこを探してもいない。


「そんなことしないで今日は楽しもうよ。ね」


「今起こっていることの次第では別れを検討します」


「その遊び相手にくぎを刺す為に音声を提出しました」


「はぁ、確かにどうやらそういうことを言ったみたいですね」


「その酔っていたので」


「今度、他の女と遊んだら別れますよ。交友会とか下地とか必要ないので」


「ごめんなさい」

 しゅんとして少し可哀想だった。こちらも釘を刺さないといけない。この人はこうやるしか人間関係を築けないのを私は経験した。


 覚悟をして付き合った。でも一番だと本当に思っているなら、ちゃんと私だけを見てほしい。


「それでどこまで渡したんですか? 放送局に」


「その、全部」


「何やっているんですか。ホントに何で渡しちゃうの?」


「その牽制の為に」


「えーっと加奈大好きっ子さ、もういいや桃谷穂信さんからの投稿です。また音声かよ。他のお便りないの? お、吹奏楽団から演奏会のお知らせがもうすぐ来る? これで止めにしよう。これで最後、どうぞ」


「穂信が悪いんですからね。めっですよ。これ以上オイタすると穂信の好きなところ言っちゃいますよ。まずは案外脇が好き」

「こら加奈。何言っているの」

「ちょっと触ると顔が赤くなっちゃう」

「ばか、何を言っているのよ」


 目の前の穂信の顔が真っ赤。ざまぁ見ろ。


「脇触りましょうか?」


「ばか」


「じゃ、今日は念入りに触りますね」

 低めの声で耳元にささやいた。穂信の息が早い。体を抱いて震えている。


 低めの声は男の人の声に近いからダメか。これは止めておこう。


「ごめんなさい。この声は止めますね」


「こんな顔ダメ恥ずかしい見ないで」

 へ?


「もしかして好きですか?」


「ばか、そんな声出さないで」


「こんな人通りの多い道で何考えてんのさ」


「加奈だってそうじゃん」


「へぇ、こんなのが好きなんだ。何、言って欲しい?」


「ばかばか」

 胸元を叩く穂信は可愛い。


「じゃあ、お昼は普通の声で」

 周りの人達が通りすがりに視線をこちらに向けていることは察していた。公開で言われた方がこの人には効くだろう。


「穂信」

 少し声を低めに張って呼んだ。みんな、避けるように無反応だった。


「夜はこの声でしてあげるね」


「追加情報です。桃谷穂信はおっぱいが好きらしいです」

 放送のマイクからそんな音声が流れた。

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