第10話 料理は出来ません
「たこ焼きにする? 粉物はいや? お鍋は無いよね。暑いのにすき焼きもないよな」
「やけに楽しそうですね」
「だって友達が来るんだもん。楽しくなるよ! 何食べたい?」
「カレーとか」
「いつでも食べることが出来るよ」
「でも仮カノ子と食べるなら何でも特別です」
「言ったな? 後悔するなよ? 私はね、たこ焼きでも真っ黒にする女だよ?」
「私が作ります」
正直、楽しい。こうやって誰かとご飯を選んだり、友達と遊んだりすることは憧れだったから楽しい。
カレールーとニンジン、ジャガイモ、タマネギと穂信のリクエストで温泉卵も買った。
これは期待に胸が膨らみますな。
そう言って電車に乗る時も、最寄り駅に降りる時も分割したとはいえ、そう軽くはない荷物も軽々しく持ち、楽しげに歩いた。
ジェラートの時も思ったけど、この人やっぱり
住宅地でもそう目立たない大きさの家の前で穂信が鍵を出す間待った。鍵を見つけて刺して回して開けようとしたら開かない。
反対側に回すと開いた。
「うわぁ、マジか。ニシちゃんの家に行こう」
ここから一時間はゆうにかかる。今が十八時だ。
「そっか、二十時は遅いよね。分かった。仕方ない」
そう言って扉を開けた。
「ただいま」
「来た戦力外」
小さい声で兄貴なのとつぶやいた。
「お邪魔します」
「穂信、いい加減男連れて来いよ。来たら妹に手を出しやがっての
「リビングから出て行って」
リビングに入るとしょうゆ顔の男性がソファでだらしなく伸びていた。
「俺は
ソファでだらしなく自己紹介をした。
「仁科加奈と申します」
「我が妹、なぜか男は連れてこないのに可愛い女の子の友達はいっぱい連れてくる」
「部屋に帰れ」
お兄さんの腹を足で蹴っている。
「分かった妹。ったく、ここが一番クーラー効くのになー。そうだ」
お兄さんがニヤリと笑った。
「仁科さん、これは初だしだけどね。コイツ家でめちゃくちゃだらしないの。昨日なんてさ、面倒だって言ってテレビのリモコン足で押しててさ」
「部屋帰れ、降りて来るな! 死ね」
「足でリモコン操作出来るって器用ですね」
「みんなに内緒だよ」
ちょっと可愛いなって思った。
穂信に期待するのはやめておいた。ちょくちょく降りてくるお兄さんが一昨日は親御さんがこれくらいなら出来るだろうと思ったスクランブルエッグが消し炭になったという話をしてくれた。
「嘘だから、全部アイツの妄想だから」
「でも、自分の作った料理を仮カノ子に食べさせたいということもありますよ」
「そりゃそうだけどさ、私だって」
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