第4話 手を繋ぐ

「ごめんね。嫌だったでしょ。許してほしいな、洗礼せんれいとして」


「その」


「世の中男ってやつはみんなあんなのだよ。牧師ぼくしさんだって、裏では風俗そういうとこ行ってるよ」


「その風俗ふうぞくって何ですか?」

 しばしの沈黙。


「何って、風俗は風俗でしょ」


「分かりました! その町その村の生活模様の事ですね」


「そっか、中等部だもんな。分からないか、分からないよな。要はあんな風に舐められる様に見られるのが世間ってやつよ」


「ちょっと気持ち悪かったことと関係ありますか?」


「あり! 大アリ! 良かった。話が通じた」

 なぜ桃谷先輩ががっかりしているか分からない。

「これは本当に六月で」と、言っているのが聞こえた。


「暑いですね」


「まぁ、暑いけどさー」

 大きなため息をつく桃谷先輩。


「ニシちゃんって好きだった男の子いないの?」

 思い返してみた。


「抱きしめる習慣のある男の子ならいました」


「お、恋の予感」


「でも抱きしめただけですよ。抱きフレ?」


「なぜ抱きフレは知っているのに風俗は知らない」


「風俗は何のことなんですか? そうだ、調べますね」


「分かった。調べなくていい、君は君のままで、困ったな男子校に連れて行かれてしまう」


「じゃ、桃谷先輩が教えてください!」


「えぇ、私? 私か」

「その玉造とか森ノ宮とか。でもすごい目したもんな」


「そもそもみんな元カノ子なんですか?」


「そうだよ? 何で? あっ、ちょっと桃谷先輩気になってきた?」

 ふいっと顔を背けた。

「えー、つれないなー。もういいもん肩にもたれるー」

 右肩に温かい感触。


「こうやって、ちょっと手を繋いだら、カップルみたいだね」


「よく分かりません」


「中学生だもんね。でもあったかいでしょ?」

「付き合ったら、これを独占出来るよ? どう?」


「結構です」


「えー、つれないなー」

 学校に戻っても様子は変わらない。もうそろそろ離してほしい。あの刺すような視線は嫌だ。


「そろそろ離してください」


「このままみんなの前に行ったらどうなるかな?」

 いたずらっぽい笑顔を右横でこぼしている。みんなこの人のどういうところが好きなんだろ。

 遠慮えんりょが無くて空気が読めてない総務の先輩。元カノ子だらけなのに競わせて笑ってる性格の悪い人。


「あ、もしかしてすぐに別れると思ってる? 一番いい時に別れるからずっと最低なら別れないよ。こう喧嘩したら顔にグーパンチしてくれるほどのクズなら」

「冗談だよ。そこまでのクズなら他の子に処理してもらうし、それに幸せな時に終わった方が絶対いいって」


 いつの間にか生徒会室。


「じゃ、入ろっか」

 右手を振り払おうとしても離してくれない。


「離し、て」


「離さないよ。ただいま」

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