24話 おっさんと披露宴 4
葉山悟は焦っていた。
『なんで俺のシャンパンの栓が抜けやすくなってんだ』しゅーっ
リーダーのやつ山田のシャンパンと間違えやがったな!
やばい!ぬ、抜ける…
「それでは新郎新婦様にはケーキ入刀の準備をお願い致します。
カメラをお持ちのお客様はいいアングルで撮影して頂いて結構でございます。どうぞケーキの前にお越し下さい」
司会者が言うと、カメラを手にお客様が動き出した。
そして、新郎新婦がひな壇から高さ3メートルはあるデコレーションケーキの前に移動している時だった。
「ポーン!」
とシャンパンの栓が抜ける音が静かな会場に鳴り響いた…
音のする方へスタッフ、お客様、司会者が一斉に視線を向けると、
シャンパンの泡でびしょ濡れの葉山が慌てていた。
「失礼致しました…」とか細い声で言っていた。
葉山が頭を深く下げ謝り、すぐに裏口からパントリーに下がって行った。
彼の顔は怒りと恥ずかしさで赤らんでいたのがはっきりと見てとれた。
田中さんはすかさず司会者に目で合図をし、この様なハプニングにはすぐに対応できるプロ、言葉でこの場で笑いを取っている。さすがだ。
他のスタッフは慌てる事もなく冷静に対応し、ケーキ入刀で一斉にシャンパンの栓を抜いて
「ポーン!!」
と音を合わせシャンパングラスへと次々と注いでいく。
後でリーダーから話しを聞いた田中さんが葉山を怒っていたが、知らない振りをしてその前を私は通り過ぎて行きすぐに持ち場のテーブルに行き、乾杯後のドリンク提供を始めた。
私の持ち場は新婦友人が多くいる席で、服装なども豪華で華やかだ。
その中に1人話す言葉からフランス人らしい女性が和服姿でいた。
彼女は新婦がフランス留学していた時に出来た友人らしい事が会話から聴きとれた。
会話が途切れた後、彼女は嘆いていた
「私は美味しい和食が食べれると思いわざわざ来日したのに、よりによってフレンチのコース料理なんて残念だわ…」
私は彼女が漏らした一言を聞き逃さなかった。
私はフランス語で「お客様お飲み物はいかが致しましょう、ワイン、ビール、日本酒、ジュースなどございますが?」
「本日はお客様のご要望の和食で無く残念でした。ですがうちのフレンチも結構美味しいですので、ご堪能ください。和服凄く似合ってますよ素敵です」
「あら、貴方のフランス語南訛りね、私も南の出身だから懐かしいわ今はパリに住んでるから。独り言が聞こえたみたいね、ふふふ赤ワインを頂くわ」
『彼女が嘆いた時、自然に素が出たのだろう。私の言語理解がそれを認識して発音してるからね』
「友人のフランス人が南部の方なので」
「こちらにお泊まりなら夕食はぜひレストラン・グランディールへお越しください。私がお客様の楽しんで頂ける和食を提供致します」
「貴方が接客してくれるの?」
「もちろんです。お客様の為に誠心誠意対応いたします」
「ふふふ…楽しみにしてるわ。お名前は?私はフランソワ」
「山田直樹です、直樹と呼んでください。19時にレストランでお待ちしております。楽しみにして下さいフランソワ」
その後も接客するたびに会話を楽しんだ。
その後も葉山がいろいろ仕掛けてきたが、披露宴はつつがなく進み両親への花束贈呈となり、私はスポットライトを下両親に照らした。
花束贈呈も終わり、新婦の両親への感謝の手紙を読むシーン、私は子を持つ親の気持ちで聞いた。泣ける。
披露宴は終わり、お客様も全て居なくなった時、
「直樹!約束破らないでね」
とフランソワが声を私にかけて去って行った。
さてと、グランディールに行って、フランソワへのサプライズサービスの準備をしますか。
私は会場を片付けてスタッフの皆んなに挨拶をし、宴会場を後にした。
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