第23話

「……どうしたものでしょうね」

 イサムはリーンに問いかけた。

「どうしようも何も……オレ様に言われてもなぁ……オレ様より……クローかコウと相談した方が良いと思うぞ?」

 リーンはそんなことを言ったが、別に迷惑そうではなかった。

「いえいえ……こういうときはリーンが一番です。時間があるなら相談に乗ってください」

「そうかなぁ……オレ様……あまり頭が良くないからなぁ……」

 ばつが悪そうに言うリーンにイサムは微笑む。

「まあまあ……僕が話しますからリーンは聞き役で……思ったことをポンポン言ってください。まず、この地に麹菌はいないかもしれません」

「ええっ! そ、それは……どういうことなのだ? オレ様たちは麹菌を探しているんじゃないのか?」

 びっくりした顔でリーンはイサムに訊いた。

「僕も最初は普通に……空気中にでも漂っていると考えていたのですが……リーンが言ったようにこの地に味噌はありません。麹菌がありふれているなら味噌か似たような何かが絶対に造られるはずなんです。ですから麹菌が生息していたとしても、それは非常に希少種と思われますね」

「希少種……珍しくてもいるなら……前にイサムがいった味噌のご先祖様が造られることもあるんじゃなのか? オレ様が知らないだけで親戚が………………無いな」

 そう言ってリーンは傍らのヴィヴィアに視線を投げかける。

 ヴィヴィアは話し合う二人の邪魔にならないよう静かにお茶を給仕しているところだった。

「『みそ』に『しょうゆ』でございますか……坊ちゃまがお小さい頃から何度か御所望されてらっしゃるのですが……」

 申し訳無さそうにヴィヴィアは二人に言った。

「ふむ……なるほど。そういえばそうですよね……リーンの境遇なら味噌や醤油を探さないわけがない。やはり、この地に味噌も醤油も無さそうですね」

「じゃあ……絶望的なのか? 麹菌がいるなら味噌は造られるし……造られていないから麹菌もいない?」

 可哀想なほどがっかりした顔でリーンは言った。

「いえ……どんな種類の菌であれ、全く生息していないというのは考えにくいんですよね。それこそ絶滅するくらいのことが起きない限り」

 そう言ってイサムは考え込んでしまう。

「でも、いるなら……いるなら偶然にでも味噌ができるはずなのだぞ?」

 リーンがイサムに自説を思い出させた。

「それは……偶然にでも味噌の先祖ができても……再現できないからじゃないですかね? ここで味噌造りをすると高確率で何も起きないか毒になります」

「うーん……それじゃあ……結局、いるんだかいないんだか解らない? それじゃあ困るぞ?」

「……ですね。うん、やっぱり乳酸菌類の捜査はダメですね」

「んあ? なんでいきなり乳酸菌類の話なのだ?」

 難しい顔で首を捻りながらリーンが訊いた。

「話がとびましたね。乳酸菌類が……乳酸菌類に限らず、この地で捕まえられる菌のどれかが代用菌になる可能性はあります。でも、いまの話と全く同じでそれは希少種なんです」

「……もう一回話が飛んでないか?」

 眉根をよせた厳しい顔つきでリーンは必死で考えていた。

「代用菌がありふれているなら……それを利用して味噌の類を造っているはずなんです。でも、そんなものは無い。なら、存在したとしてもありふれていないんです」

「んー……それもそう……か? でも、探すくらいしても良いんじゃないのか?」

「同じ希少種探しをするなら麹菌探しの方が良いじゃないですか。それに麹菌は存在可能だと思いますが……代用菌は存在しない可能性があります」

「そうなのか?」

 リーンはなんとか答えるが……明らかに話についていけてない。

「そう思います。この異世界がどこまで僕たちの世界と同じか解りませんが……瓜二つと言って良いほど同じところが多いです。ですから、僕らの世界にあったものがあると考えてもおかしくないでしょう。探してみるのもナンセンスとは感じません。でも、僕らに都合が良いものを探すというのは……少し間違えたと思いましたね」

「ふむ……それじゃ稲の捜索……胡椒ロードの探求か?」

 そう言われてイサムも考え込んでしまう。

 無言の間を取り繕うようにヴィヴィアがお茶のお代りを給仕した。

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