第12話
聞き込みの結果は惨憺たる有様であった。
「厳しいですね……」
四人は再集合してお互いの成果……空振りだったことを確認しあう。
「季節とか関係ねえのか?」
コウがイサムに質問した。
「豆とか穀物は……収穫したら長期間保存できるのが売りですからね。季節は関係ないかと」
「よく考えたらオレ様……いままで大豆らしきものをこの世界で食ったこと無かったのだ」
「どうする?」
「ここにある豆で造れりゃ何の問題も無えんだけどな……ダメなんだろ?」
クローの問いかけにコウはイサムへの質問で返した。
「そうですねぇ……この品揃えだと造れるのは……そら豆で豆板醤ってとこですかねぇ……」
「豆板醤って……中華料理の辛いあれか?」
イサムの返事にクローが訊き返した。
豆板醤はクローの言う通り中華料理、特に四川料理でよく使う調味料だ。豆板醤を使った日本でも有名な料理といえば麻婆豆腐に回鍋肉であるから、食べたことの無い人は少ないだろう。
「マーボー豆腐とか回鍋肉のあれか……」
クローの言葉にコウも思いあたったようだった。
「ああ? オレ様、辛いのは苦手……。回鍋肉ってなんだ?」
「日本語で言うと豚肉とキャベツの辛味噌炒めですね」
「ああ、あれかな? ……思い出しちゃったぞ。あれは結構好きだったな……」
リーンはがっくりした顔で言った。
「待て!」
コウとクローが同時に大声を出した。
「……いま何て言った?」
クローがさらに続けた。
「オレ様、あれは結構好きだったと……」
おどおどしながらリーンは答えた。
「いや、お前じゃない。イサムの方だ」
イライラしているのかコウの言葉には棘があった。
「日本語で言うと……豚肉とキャベツの辛……み……味噌!」
気がついたのかイサムは動揺が隠せてなかった。
「それがどうしたのだ?」
リーンは話についていけてないようだった。
「いや、コウ……味噌っつても……味噌っぽいだけって落ちもありえるぞ?」
クローは自分への防御線なのか、イサムへの助け舟のつもりなのかコウを宥めた。
「……そうだな。我らが頭脳たる『全知』のイサム……豆板醤とはなんだ?」
コウが静かな声で訊き返す前からイサムの目は泳いでいたし、顔は汗だらけだった。
「豆板醤とは四川地方の調味料で……本来は茹でたそら豆を麹で醗酵させた味噌。……仕込むときに唐辛子などを追加したのを特にトウバンラージャン……辛い豆板醤と呼び区別します」
それでも情報を公開したイサムは偉いのかもしれなかった。
「つまり……要するに味噌か?」
愕然とした顔でクローは訊いた。
「そ、その通りです……」
観念したようにイサムは言った。
「最初から造れる材料あんじゃねぇか! 毎日のように食ってんだぞ! 何度も目にしてんだぞ! ここで……この異世界で一番ありふれてる豆じゃねぇか!」
我慢の限界なのかコウは大声でわめきだした。
「み、みんなも……みんなも悪いんです! そ、そら豆で味噌が造れるかって僕に訊いてくれれば……瞬時に解かったはずなんです!」
見苦しい言い訳をイサムははじめた。
「流石のオレ様も……それは無いと思うぞ」
リーンは思わず言うが……イサムを気づかっている風でもあった。
「そうだな……俺たちが……俺が悪かった。イサム! そら豆で醤油ができんのか?」
完全に怒っているときの口調でコウはイサムを問い詰めた。
他の三人はともかく……護衛の兵士達は『勇者様』たちが暴れださないかと冷や冷やした表情だ。
「……待ってくださいね。念のために……深く潜ります」
そう言うとイサムは目を瞑って黙った。いつものように『全知』でより細かい知識を調べるのだと思われたが……すでに汗だらけだった顔から滝のような汗が流れだす。
そんなイサムの様子に三人は不審そうではあるが、礼儀正しく沈黙して結果を待った。
沈黙に耐えかねたのかイサムがゆっくりと目をあけて口を開く。
「えー……そのー……ずばりですねー……そのー……『そら豆醤油』と『そら豆味噌』というのが……えー……ありますね。製品化すらされています」
引き攣った笑いをしながらイサムは言った。
「全知
キレてしまった幼稚園児の如く、コウは連呼した。
可哀想だとは思っているのだろうが……クローもリーンも止めはしなかった。
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