第37話
イサムの言葉に三人は黙った。
三人にもじわじわと意味が理解できはじめたようだった。イサムが涙したのも理解できただろうし、いまなら共感もできただろう。
彼らはついに成功したのだ!
醤油や味噌の完成はまだ先の話であろうが、成功までの道筋はついたと言っても過言ではなかった。
「振りかけたのは塩……だよな? どうして塩を振ったら解るようになったんだ?」
クローが疑問を口にした。
「アミノ酸だけの味と言うのは僕も初体験でした……要するにそれって旨味だけの味ですからね。旨味だけだと解りにくいので、味をはっきりさせるのに塩を加えたんです」
イサムは何でもないように説明したが……彼ですら顔は赤く上気したままだ。
「これは醤油と味噌のどっちの味なのだ?」
不思議そうな顔でリーンはイサムに訊いた。
「どちらでもない、が正解だと思います。醤油も味噌もこのあとの工程で……寝かしでさらに複雑な味に変化するそうですから。僕の言った味噌の祖先、それが一番近いと思いますね。材料が違うけど塩麹にも近いのかな?」
考えながらイサムは答えた。
「とにかく……俺たちは醤油と味噌が造れる! そういうことだな!」
コウはそう言ってまとめた。
そして最後に一粒残ったそら豆に手を伸ばそうとするが、その手をリーンに掴まれる。
「オレ様……まだフラフラするし、腹が減っているのだ!」
そう言って残る逆の手でそら豆を摘もうとするが、その手をクローに掴まれた。
「……病み上がりに味が濃いものは良くないと思うぜ?」
そう言いながら残った手でそら豆を摘もうとするが、その手をコウに掴まれた。
「お、俺はこれでもリーダーだぞ? ここはリーダーに譲るべきだと――」
……非常に醜い争いが開始されていた。
三人が三人ともに一歩譲らず、それでいながらお互いの手を押さえているので誰も最後の一粒を食べることができない。一見、変な円陣を組んでいるようにも見えた。
「なにやってるんです?」
不思議そうにイサムは言いながら、最後の一粒を口にした。
「あーっ!」
……三人の口から悲痛な叫びがあがった。
「ちゃんと四の倍数だけ持ってきたんですから。これは僕の分です」
イサムは口を動かしながら自分の権利を主張した。
無言でリーンは立ち上がった。手には味見用の皿が握られている。
コウも塩の入った壷を持った。
「……駄目ですよ? あれは貴重な麹菌なんですから。いつでも手に入る訳じゃないんです! 味見で食べきるなんて以ての外です!」
イサムが慌てて二人を止めた。
「そ、そうだな……イサムの言う通りだ。ここは我慢だな」
クローも苦しそうに同意した。
「だ、大丈夫だろ? また、あの白鳥のいた池のところいけば……麹菌が捕まんじゃないか?」
コウは見苦しく主張した。
「なんだか解らないが……コウの言う通りなのだ!」
リーンも尻馬にのった。
「いえ……それなんですが……再現性は高くないかもしれません。あの池を再調査はしますが」
イサムが真顔で言った。
それでコウとリーンも落ち着きを取り戻したようだった。大人しく椅子に戻る。
「どういうことだ?」
コウは自分達のブレインに問いただした。
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