第51話

「まずは僕からですね、いま用意します」

 そう言ってイサムは立ち上がった。

「んあ? 二人して作りあったのか?」

 リーンはクローにたずねた。

「いや……メニューそのものはイサムが決めたんだが……あいつ独りで作れるのは俺にも内緒なんだ。だから、俺も楽しみだ」

 嬉しそうにクローは答えた。

 そして全員の前に箸とフォーク、それに小さなトング――握るだけで食べ物を掴める道具が並べられた。

「小皿はたくさん用意しました。……釉薬がいまいちな出来ですが、使用に耐えうると思います」

 イサムはそう言いながらテーブルのあちこちに小皿をたくさん積み重ねていった。

「素焼きじゃない陶器とか久しぶりに見たな」

 懐かしげにコウは言った。

「高級品にはあるようなんですが……基本、この世界の陶器は素焼きですからね。醤油用に素焼きは馴染まないでしょうから」

 説明しながらイサムは醤油差しをいくつかテーブルに置いた。

「おおー! しょ……醤油なのだ!」

 叫びながらリーンは小皿に醤油を注いで舐めはじめた。

「しょっ……しょっぱいぞ! 醤油なのだ! しょっぱい醤油の味なのだ!」

 そして余人には理解しがたいテンションで叫びだした。

「ぼ、坊ちゃま?」

 そんなリーンを心配して、慌ててヴィヴィアが止めた。

「うん。醤油だな!」

 コウも同じように醤油を舐めてニヤニヤしだした。

「なんて言うか……少し若いというか……とんがった感じだったけど、確かに醤油だよな」

 流石に舐めたりはせずにクローは言った。

 彼ら以外の者は同じように醤油を舐めてしょぱいと顔をしかめたり……小皿を手にして眺めたりしている。醤油が珍しいのはもちろんだが、釉薬を使った陶器も珍しいのだ。

「クロー様……これはどちらの産地のもので? わが国の物では無いようですが……」

 不思議そうな顔でケマは訊いた。

 流石に釉薬を使っているだけでは驚かなかったが、由来には興味があるようだった。

「あー……適当に集めやすいので釉薬にしたとか言ってたなぁ……。特に焼物として成立しているものではないみたいだよ」

 優しい笑顔でクローは答えた。

 しかし、釉薬の製法をめぐって人命が失われたり、政治が変化したりする時代だ。クローのように気軽に扱って良い事柄ではなかった。

「この皿はクローが作ったのか?」

 不思議そうな顔でコウはたずねた。

「ああ。俺が作ったのは醤油差しの方だけどな。口で説明するのは難しいから、俺がやった。皿のほうはこの世界の職人さんだな」

 気にした風でもなくクローは暢気に答えた。その隣ではケマが引きつった顔をしている。

「いつの間に陶芸なんてしてたのだ?」

 呆れ顔でリーンは言った。

「俺も全部は知らないけど……イサムが用意した品数は凄いぞ? たぶん、お前らも驚く」

 同じく呆れ顔でクローは答えた。

「ケマ姫、釉薬の製法がお知りになりたいなら、あとでこの国向きのを考えておきますけど? それより、今日はお食事を」

 そう言いながらイサムは料理をのせた皿を置いた。

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