第52話
「こ……これは!」
「ま、まさか!」
「これはビックリなのだ」
三人は一様に驚いていた。
最初の一皿に何が用意されたかというと……ただの漬物だったからだ。綺麗にスライスされた漬物が皿にはのっていた。内訳は瓜、かぶ、大根の三種だ。
「まあ、まずは懐かしみましょう。久しぶりでしょう?」
そう言ってイサムは自分の席についた。
「意外だが……なんと言うか……アリだな!」
そう言いながらコウは小皿に取り分ける。
「ヴィヴィア……これは『漬物』というものだ。先ほどの『醤油』を好みでかけて食べるのだぞ。しょっぱいからかけ過ぎないように……それとこの『箸』なのだが……」
「箸は難しいよな……この小さなトングはどう? うん、これはまあ……ケマたち用に用意したもので……」
などと、意外に優しく恋人の面倒を見るリーンとクロー。その二人を見て、慌ててコウも自分の愛人たちの面倒を見はじめる。
「……これは冷やしてあるのか!」
食べてすぐにクローは気がついた。
「漬物を冷やすのが正道なのかどうか解りませんが……僕らにとって漬物は冷えているものですからね。冷蔵庫で冷やしてあります」
「……冷えてん食べ物ってのも久しぶりな気がすんな。冷めたって意味じゃなくてな」
納得してコウも肯いた。
「昔は漬物なんて嫌いだったが……懐かしいし美味いのだ」
しみじみとリーンは言った。
「でも、いつの間に瓜が手に入ったんだ? この国でも栽培してたのか?」
箸で摘んだ瓜を眺めながらたずねるクロー。
「生きたままで……鉢植で輸入しました」
さらっとイサムは答えた。
「生きたままで? そんなのどうやんだ?」
たまらずコウは叫んだ。
「とある貴族さんと……たまたま知り合いになりまして……たまたま隣の国と隣接した領地の方で……たまたま隣国と貿易している方で……たまたま瓜の鉢植をプレゼントしてくれたんです」
明後日の方を見ながらイサムは答えた。
「す、凄い偶然だな。と、ところで糠床ってこの国の物で作れるのか?」
引きつった笑顔で誤魔化すようにクローは言った。
「糠床は色んな物で代用可能なんですよ。今回はパンとビールで作りました」
みなに向き直り、笑顔でイサムは答えた。
「昨日から作らされた氷は冷蔵庫用だったのだな」
感心したようにリーンは言った。
「麹室を流用した間に合わせですけどね。その内、冷たいジュースや氷菓子なんかも良いかもしれません。まあ、色々と足りない材料があるんですが……クロー、次をお願いします」
周りを見ながらイサムは言った。
彼ら以外はあきらかにガッカリしていたのだ。大騒ぎした結果が変わったピクルスなのだから、彼女たちの落胆も無理はなかった。
「そうだな。次はあれか……ちょっと待ってろ」
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