第47話

 翌日、まだ夜も明けぬうちに彼らは浜辺に向かった。

 彼らが浜辺に到着すると、地元の漁師らしき一団が整列して待機していた。よく見ると女性や子供まで整列している。

「どういうことだ?」

 訝しげにコウが訊いた。

「いや、僕にも……地元の漁師さんが網の設置まではやってくれると聞いてたのですが……」

 それに不思議そうに答えるイサム。

「漁村なんかじゃ村総出で網を引くらしいが……それにしても様子が変だな」

 クローも不審に思ったようだ。

「んあ? いったい、オレ様たちのことをどう説明したのだ? まるで領民が領主を出迎えるときのようだぞ?」

 リーンは言うとおりだが……それにしても様子がおかしい。

「ゆ、勇者様! わ、私、村長を勤めさせていただいている、マ、マルコと申しますです!」

 代表者らしき男――村長のマルコは直立不動で自己紹介をした。

 緊張のあまり今にも倒れそうなのがすぐに解った。

 村人たちの目つきもよく見ればおかしい。支配者階級を目にするときの恐れ――それならば四人にも理解はできた――ではなくて、尊敬の念が強く、全員の目が子供のようにキラキラと輝いていたのだ。服装も全員が一張羅か何かのようで、精一杯に綺麗な服を着ているようだ。明らかにこれから作業をする感じではない。

「えっと……これから地引網を手伝ってくれる……んですよね?」

 イサムが恐る恐る訊いた。

「も、もちろんでございます! 勇者様のためなら何度でだってやらせていただきます!」

 叫ぶようにマルコは答えた。

 彼ら四人は知らなかったが、この地は魔王軍に最初に侵略された場所だ。それから彼らが軍勢を率いて魔王軍を敗走させるまで占領下にあった。それは王都のように戦争で苦しかった程度の苦渋ではない。

 村人達にとって戦争を勝利に導き、あまつさえ魔王討伐まで果たした四人は神に等しかったのだ。

「どうします?」

 イサムは彼らだけに聞こえるように小声で囁いた。

「どうするもなにも……いまさら断ったらあのおっさん、自害くらいはしそうだぜ?」

 やはり小声でコウも応じた。

「そ、そうだな……今日のところは有難く手伝ってもらって……後日なにかお礼の品を……下賜?だっけ? すれば良いと思う」

 クローが現実的な対応を提案した。やはり小声だ。

「馬鹿! そんなことしたらあの村長は面目を潰すぞ! ちょっと任せるのだ」

 リーンも小声でそう言って、村人たちの前に出て行く。

「善良なる民達よ! そなたらの忠心、オレ様たちは嬉しく思う」

 芝居ががった口調でリーンは村人たちに話しかけた。

 リーンの台詞を聞いて「大魔法使いリーン様だ……」という囁きが村人達から漏れる。その言葉を聞いたリーンの顔は少し赤くなった。

 誰に言われるでもなく村人達は跪いていく。泣いている村人すらいた。

「やり過ぎじゃないですかね?」

 イサムが小声でいった。

「仕方あんめぇ……いきなり用件だけ言うよりいいんじゃねぇか?」

 小声でコウはそう答える。

「まあ、俺たちじゃ村人さん達の期待に応えられないしな」

 やはり小声でクローが締めくくった。

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