第46話

「エビフライだ」

 夕食の席で感動の言葉がコウから漏れた。

「悪いとは思ったんですが……生きているエビだけ選り分けて買ってきましたからね。新鮮だと思いますよ。添えてあるのはタルタルソースです。……ゆで卵、玉ねぎ、マヨネーズ、塩、胡椒で作った簡易版ですが。小皿には例に拠ってレモンの代わりの酢、塩の方がいい人には塩も用意しました」

 イサムは説明で省いたが、タルタルソースには瓜のピクルスが入る。

「エビフライにはこれに決まりなのだ!」

 そう言いながらリーンは酢をつけて食べた。

「……エビフライにはレモンなのな」

 自分はタルタルソースで食べながらも複雑な表情のクロー。

「カキフライも食べたかったのですが、時期がずれてまして……」

 残念そうにイサムは言った。

 相伴にあずかる『ハーレムさん』たちやヴィヴィアも満足げにエビフライを食べていた。彼らの食事への執念は基本的に我がままでしかないが、周りのものにも必ず食べさせていたので問題視されていないのだろう。

「イカフライはソースがいいのだ……」

 しょんぼりとリーンが嘆いた。

「リーンの言うソースは……ウスターソースのことですね。あれはトマトが要るんですよ。それに砂糖や唐辛子などの香辛料も……」

「まああれだ! いずれ何とかすっとして……いまは塩で食べろ!」

 コウが無理やり納得させた。

「で、どうする? 鰯はともかく、海藻類はまるでなかったぞ?」

 クローも話題を変えた。

「自分達で獲りましょう! 元々、その計画だったんですから! ちゃんと地引網をする許可をもらってあります」

 イサムがみなに提案する。

「相変わらず手回しが良いな。地引網って勝手にやったらダメなのか?」

 クローは苦笑いをしながら訊いた。

「この時代に自然保護の思想はありませんが……地引網はやりすぎると漁場が枯れるらしいです。それに勝手にやったら地元の漁師さんが怒鳴り込んできますよ。道具も借りるわけですし」

「まあ、面倒だが……獲るところから自分たちで管理すれば良いとも言えっからなぁ。確か地引網は根こそぎで色んな種類が獲れんだよな? なら、俺たちに必要な分は確実に確保できんだろうな。昆布と若布はどうすんだ?」

 コウは賛同しつつ話を進めた。

「昆布と若布は……誰かが素潜りして目に付く種類を片っ端から採るしか……」

 申し訳無さそうにイサムは言った。

 するとなぜか相談もしないのにクローに視線が集中する。

「……いや、別にやりたくないとは言わんが……ちゃんと話し合いはしようぜ?」

 諦め顔でクローはみんなを諭した。

「申し訳ないのですが……僕とリーンは地引網の時に懸かりっきりになると思うんですよ」

「そうなのか?」

 イサムの言い訳に初耳といった顔で応じるリーン。

「……それじゃ、俺かクローだな」

 そう言うコウは自信ありげに片手を握った。おそらくはジャンケンをするつもりなのだろう。

「いえ、クローには獲れた鰯を片っ端からさばいてもらわないと……」

 またも申し訳無さそうにイサムが言った。

「最初っから俺じゃねぇか!」

 呆れたコウのツッコミが部屋によく響いた。

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