第30話
「……まずくねえか?」
「……まずいかもしれません」
二人がリーンを発見した第一声だ。
リーンは城の裏手のかなり広い空き地の中央に……浮いていた。比喩表現でなく、空中に支えも無く、座禅を組んだ姿勢で実際に浮いていた。
リーンを中心として半径二メートルほどの半透明のガラスのような球体が構築されていて、その表面では線のような光が忙しく走り回っている。
球体には文字で作られたリング――ちょうど土星のわっかの様な形で三重にかかっていた――が取り巻いていて、そのリングは回転しながら球体の表面をなぞるようにも動いていた。
さらに半透明の球体を母星とするように色とりどりの玉が四つ、衛星の如く浮いている。
その中心で座禅を組むリーンは愛用の魔法の杖を膝に、目を閉じて小さな声で呪文か何かを唱え続けていた。集中しているようで、コウとイサムに気がついた様子はない。
「これは魔方陣?とかいうやつ……なのか?」
コウが呆れ果てた口調でつぶやいた。
「あー……たぶんそうですね。大分前……魔王を倒す前に……円よりも球の方が図形として安定しているとアドバイスした覚えがあるような……」
「……そうか」
イサムに短く応じるコウ。だが、その口調には「余計なことしやがって!」とでもいったニュアンスが込められているようだった。
「あの赤い玉……あれ、城塞都市の城門を吹き飛ばした奴だよな……跡形も無く」
コウが指し示すのは衛星のように浮いている玉の一つだ。玉と言っても大きさはバスケットボールくらいはある。
かつて彼らは魔王軍との決戦をした。
決戦の地に選ばれたのはこの国で最も堅牢な城塞都市。後が無くなり篭城を選んだ魔王軍と、都市の奪還と戦いの決着をかけた王国軍。その決戦でリーンが使い、攻城戦を短期決戦に導く偉業をもたらしたのが目の前の赤の宝玉……空高く舞い上がり流星のごとく降り落ち、たったの一撃で城門を跡形も無く打ち砕いた赤の宝玉に違いなかった。
「あー……そうですね。あの時より光が激しいような……。ほかの三つ……青と緑と黄色っていうのもあるんですね。種類が違うんでしょうか?」
「……そうかもしれないな」
感覚があっというまに麻痺したのか暢気なことを言うイサムに、また短く応えるコウ。その口調には「知りたくないな!」とでもいったニュアンスが込められているようだった。
「……止めなくて良いんですか?」
意外そうにイサムはコウにたずねた。
「……どうやって?」
そう、コウはイサムに問い返した。
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