第40話
「麹ができたらまずは半分に分けてしまいましょう。片方が味噌用でもう片方が醤油用です」
そう言いながらイサムは麹を半分に分けた。
「味噌用の麹には塩を混ぜます。これを塩きり麹と呼ぶそうです。おおよそ麹の……これは生ですから麹が三に対して塩が一といったところでしょうか? 割と適当で、少し塩を多くしてあります。多いほうが失敗しにくいそうですから。この辺の数値は色々と試すつもりです」
そう言いながらイサムは麹に満遍なく塩を振りかけ、混ぜていく。
「こっちはどうなのだ? これくらいで良いのか?」
隣りで作業していたリーンがイサムに訊いてくる。
リーンとコウは二人がかりでそら豆を潰していた。こちらは麹ではなくただ茹でただけだ。
「きちんと潰れているほうが良いそうです。まあ、今回はこれで試してしまいましょう」
イサムの手元とリーンたちの手元を食い入るようにクローは見ている。彼はどんな技能も見ただけで覚えられるので、今回は観察に回ったのだろう。
「そちらで潰した豆とこちらの塩きり麹を混ぜ合わします。使った生麹三に対して潰した豆が二としました。この辺も研究ですね」
そう言いながら混ぜ始めるイサム。
コウとリーンはイサムの様子を見ていたが、しばらくすると真似をして手伝い始めた。
「耳たぶくらいの硬さが良いそうです。水分が足りなかったら豆の茹で汁を加えるのですが……これで良いのかな? 今回は良い感じだったとして進めますね。この辺も研究の余地があるなぁ……」
そうぼやきながらイサムは混ぜ合わせた材料を一掴み手に取る。
「本当は僅かでも味噌を混ぜると良いらしいのですが……空気中にある乳酸菌やなんかが上手く捕まるのに期待です。この後は空気が良くないそうなので、材料から空気を抜きます」
そう言って、用意していた壷の中に勢い良く叩き付けた。
「これで余分な空気が抜けるそうです」
イサムはそう説明をした。
全員でどんどん壷に放り込むとたちまちに終わってしまう。
「全部入れたら表面を平らにならし、塩を振りかけます。これは雑菌の繁殖を抑える為らしいです」
そう言って丁寧に塩を振りはじめた。かなりの量で表面が白くなるほどだった。
「そして落し蓋をします。落し蓋に重石をのせますが、適当な重さが解らないので適当です。たまりと呼ばれる浮いてくる水分に落し蓋が沈みきらないくらいが良いそうですが……これは観察して重さを変えるしかないでしょうね」
そう言いながら落し蓋をして、その上に重石をのせるイサム。
「最後に壷にフタをします。空気が良くないので密封も考えたのですが……まずはただフタをするのに留めました」
そう言ってイサムは壷のフタをした。
「……で、あとは?」
コウが代表して訊いた。
「あとは一ヶ月から二ヶ月くらいしたら一回だけかき混ぜます。作業としてはそれだけですね。三ヶ月くらいしたら食べられるようになり、半年ぐらい経つとどんどん美味しくなっていくそうです」
「次は醤油だな!」
リーンが元気良く言った。
「醤油は……まあ、やってみましょう」
イサムは自信なさげに言った。
「塩水を用意します。水の量は麹と同量、塩の量は水の二割としました」
そう言いながらイサムは麹を量っていた。道具は原始的な分銅量りだ。
重さを量ったら壷の中に水を注ぎ、塩もどんどん入れる。しばらくイサムは壷をかき混ぜた。
「もう良いかな? 塩水と麹を混ぜ合わせます」
そう言うと麹を壷の中に入れる。入れ終わると、またかき混ぜた。
「もう良いかな? ……終わりました」
そう、イサムは言った。
「えっ?」
三人は異口同音に叫んだ。
「いや、本当に終わりなんです。この後、低温で三週間ほど寝かし、その後はやや高い室温程度で半年ほど寝かします。なるべくかき混ぜると良いそうですが……日に二、三度かき混ぜれば良いんじゃないかな?」
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