第59話
「あちっ! あちっ!」
コウは焼きお握りを持とうとしては失敗し、何度も呻いていた。
「……少し待てば良いじゃねえか」
第二陣のお握りを焼きながらクローが呆れて言った。
同じようにクジーンも別の七輪でお握りを焼いている。第一陣のやり方を見て学習したのだろう。
「楽しんでんだよ!」
いい笑顔でコウが答えた。
「……そりゃ、悪かった」
苦笑いでクローも言い返す。
「美味い!」
先に焼きお握りを口にしたリーンが満足の叫びをあげる。
聞いただけで料理人が報われる気持ちのこもった叫びだった。
「うん、味噌と醤油の香りがたまらんな!」
ようやく口にしたコウも同意した。
その二人をニコニコと眺めながらイサムもお握りを食べていた。
「んあ? 鮭なのだ! コウ! これは具が入ってるぞ!」
リーンが驚きの言葉を口にした。
「なんだと? おお! 鮭だ! 切り身で具って珍しいな」
コウも具までたどり着いたのか喜びの声をあげた。
「……メジャーではないのですが、具を入れることもあるんですよ。せっかくなので豪華に切り身ままの鮭を入れました」
食べながらイサムが説明する。
しかし、なにか気がかりでもあるのか、多少歯切れが悪かった。
「そして味噌汁なのだ!」
誰かに報告するようにリーンは言って、味噌汁を飲みはじめた。
そして一口味わっただけで、何も言わず幸せそうな笑顔になった。
それを見たコウも味噌汁を飲みはじめる。
そんな二人に微笑みながらイサムが言った。
「味噌汁は大成功でしたね。鰯干と昆布から水出しで出汁を取って、具はシンプルに若布のみ。魚のあらが大量にあるので、あら汁も捨て難かったのですが……今回はこちらにしました。もう少し味噌が熟成してたら良かったんですが……まあ、今後の楽しみということで。ああ、だし汁も用意してありますよ。焼きお握りとだし汁で茶漬けにできますけど?」
「いや、今日はこの味噌汁で満足だ。茶漬けも遠慮する。……色々考えてくれたんだな。ありがとう」
コウはそう言うだけに止めたようだった。
「もっと食べたいけど……残念だけど……今日はこれだけでいいのだ。流石にお腹一杯になってしまったのだ」
残念そうにリーンは言った。
「うん。美味いな。それにこの味噌汁は……予想以上の出来だな」
ようやく食べはじめたクローも満足の声をあげた。
「この焼きお握りには感動したのだ」
熱い視線をまだ焼かれていないお握りに注ぎながらリーンは言った。おそらく、もう一つ食べようか真剣に考えているのだろう。
「……まあ、夜までは持つでしょうし、焼けば暖かくなりますから」
苦笑いでイサムはリーンを止めた。
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