第60話

「色々と苦労したが……やって良かったな」

 焼きお握りを食べはじめた女性たちを眺めながら、しみじみとコウが言った。彼女たちも風変わりな締めの料理を楽しんでいるようだった。

「……そうだな。色々と苦労はしたけど……」

 何かを思い出すようにクローも言った。

 思い出したのは味噌と醤油造りだけでは無かったのかもしれない。

「オレ様、魔王を倒したときより嬉しかったかも」

 とんでもない感想をリーンは漏らした。

「それは……どうなんでしょう? 比べて良いものなのでしょうか? ……僕はみりんが画竜点睛を欠いたかと。焼酎と砂糖で代用もできるのですが……焼酎造りと砂糖精製が……」

 残念そうに言うイサム。

「焼酎は……麹があるんだから、焼酎は何かで造れば良いんじゃないか? できるんだろ? それと砂糖か……砂糖は手がけても良いな」

 クローも考えながら言った。

「オレ様はトマトが良いのだ! それに芋! コウもそう思うだろ?」

 無邪気にリーンは提案した。

「……なに言ってんだ。俺たちが目指すのはそんなもんじゃねえ。米だ! 米に決まっている! ……そりゃ、色々と工夫した今日の焼きお握りには感動した。だから大満足だったぜ?」

 そこで一旦区切ってコウはイサムを見た。イサムは僅かに肩を竦めることで応える。

「いや……でも……コウ、米はさすがに難しいんじゃないか?」

 難しそうな顔でクローが反論する。

「ああ、難しいだろうな。焼酎に砂糖、トマト、芋か? まあ、それも手に入れる。それは決定事項だ。そして最終目標が米なのも決定事項だ」

 コウは重々しく宣言することで返した。

「さ、流石オレ様たちのリーダーなのだ……」

 リーンは呆然と言った。

「米を最終目標としつつ……道中で色々と手に入れる。悪くない方針だと思います」

 納得顔でイサムは肯いた。

「いや、米には文句はないが……どれだけ苦労するかわからんぞ?」

 クローはなおも反論するが――

「なに、どれだけの困難があっても……困難があるくらいのほうが燃えるってもんだ。どれだけ難しくても、俺らならできるだろうしな! それに……時間はまだ沢山あるんだぜ?」

 そう言って、コウはニヤリと笑った。

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異世界で味噌と醤油をつくろう! curuss @curuss

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