第11話 変態ピッチャーの真価

「なっ……! なんじゃあ!? お前らは!?」


「通りすがりの球団マスコットです」




 俺達は指定暴力団、なま組の事務所玄関前に来ていた。




れつな格好しやがってぇ! どこの組のもんじゃあ!」


「1年1組です」


 ないを4本同時に投げ、見張りをしていた組員の両手両足を貫く。




 悲鳴を聞きつけて、他の組員達もゾロゾロと出てきた。


「カチコミじゃあ! 黒づくめの忍者が、カチコミに来よったぞぉ!」


「騎士と神官のコスプレをした奴らもおるぞぉ! 頭がイカレとる!」


「なんで全員、球団マスコットのお面なんじゃあ!」


 いや。

 さすがに素顔を晒して襲撃するのは、後々面倒かなって。


 この組は今夜で壊滅するからいいとして、警察とかの追求がね……。


 というわけで俺は、ツバメマスコットキャラのお面。

 優子はその妹キャラ。

 憲正は耳のデカい、コアラのお面を着けている。




「九州人なら、たかマスコットのお面にせんかぁ!」


 地元球団愛に溢れる組員が、拳銃を発砲してきた。


 すまんな。

 このお面しか、手元になかったんだよ。


 銃弾は、俺らに届かなかった。


 優子の張った【結界魔法】が、軽々と弾き返してしまう。




「ちゃ……拳銃チャカが効かん! 短刀ドスじゃ! ドスを使え~!」


 なんで拳銃が効かない相手に、ドスなら効くと思うのか……。


 効くかどうか、試す暇もなかった。


 憲正が【神剣リースディア】を一振りすると、ドスの刀身が切断される。


 抜かれていた、12本のドスが一斉にだ。


 一瞬間をおいて、血飛沫が舞った。




「おっと危ない。地球人は異世界人より、ずっともろいね。殺しちゃうところだったよ」


「殺すのは、塁上の走者ランナーだけにしとけよ」


 コアラ憲正をたしなめる。


 やっぱり死人は、極力出さない方がいいだろう。


 俺達3人は、物騒なファンタジー異世界の価値観に染まり過ぎた。


 意識的に現代日本人らしくしないと、この先社会生活を送るのに支障をきたす。


 ……というわけで俺達は、死なない程度に組員達を壊していった。


 ドスや日本刀ポントーを握れないよう小指を飛ばし、手足のけんも切断。


 これで残りの人生は、大人しく過ごすしかないだろう。




「ば……化け物じゃあ~!」


 血の気が多いヤクザ屋さん達も、さすがに戦意喪失していた。


 優子の杖で、組長がボコボコにされるのを見れば当然か。




「け……コアラ。そろそろ事務所ごと、やっちまおう」


「OK、ツバメ。こういう時、プリメーラの広範囲攻撃魔法があると便利なのにね」


 憲正はめんどくさそうに、神剣を振り上げた。




「ほいっ……と。さあ、崩れるよ。帰ろうか」




 俺達3人が外に出たタイミングで、事務所ビルはバラバラに倒壊した。


 指定暴力団生呼組、壊滅。






○●○●○●○●○●○●○●○●○






 なま組を壊滅させた翌日。


 俺は夕暮れのグラウンドで、投球練習をしていた。




「行くぞ憲正。まずは横手投げサイドスローからのシンカー」


 いつもの上手投げオーバースローじゃない。


 横から左腕をしならせて放った球は、シュート変化しながら落ちた。




「凄いね。サイドからも投げられるんだ。コントロールもキレも、抜群なシンカーだよ」


 返球しながら、憲正が持ち上げてくる。


 普通だったら無理さ。

 これも【とうてき】スキル、ランク10の恩恵だ。

 どんなフォームからでも投げられる。


 球種は異世界召喚前から、色々持ってはいた。




「次、下手投げアンダースロー。ストレート」


 今度はアンダースローで、低いリリースポイントから投球。


 これも憲正のキャッチャーミットへと、吸い込まれる。


「下から浮き上がってくるように見えるよ。かなり打ちにくそうなストレートだ」


 憲正の返球は速い。


 異世界召喚前はあんまり肩が強くなかったのに、いまや立派なバズーカ肩だ。




 上・横・下手投げと投げ分ける俺に、他の部員達は引いていた。




「変態だ! 変態投手ピッチャーがいるぞ!」


「3つのフォームを自在に切り替えられるなんて、お前は本当に人間か?」


「相手打者から、『キモっ!』って言われるよ」


 褒めてるのかディスってるのか、わからないぜ。


 実は3種類のフォームだけじゃない。


 上と横の中間である、スリークォーターからも投げられる。

 アンダースローも地面スレスレのサブマリン投法と、サイドに近いのを使い分けられる。


 それに加えて……。




「おいおい! マジか!?」


「それはさすがに、野球漫画の中だけだろ!?」


「いや! メジャーリーグとかにも一応、実在してたぞ」




 俺が何をしようとしているのか、部員達は瞬時に察したみたいだ。


 右手にめていたグラブを、外したのを見て。




「スリークォーター。スプリットだ」




 フォームと球種を宣言してから、振りかぶった。


 そしてを振り抜く。




 156km/h。


 ストレート並みの速さでありながら、小さく落ちるスプリットフィンガード・ファストボール。


 憲正は、全くミットを動かさない。

 狙い通りのコントロールだ。




「左右両投げだぁ!? スイッチピッチャーだぁ!?」


「両方で投げられるにしても、普通は片方の球威かコントロールが劣るもんでしょ」


「自軍エースながら、キモいわ~」




 もう、言いたい放題だな。


 俺もこんなピッチャー見たら、人間かどうか疑う。


 左右切り替えながら投げれれば、相当な幻惑になる。


 だけど……。


「左右両方で投げられても、1人の打者を相手にする間はスイッチ不可だからな」


 ルールでそういう風に決まっている。


 でないとスイッチヒッター対スイッチピッチャーになった場合、相手に合わせて延々と投げ手や打席を変える可能性があるからだ。


 そうなると、試合が進行できない。




「凄いわ! しのぶ! 最高のバッティングピッチャーね!」


 優子が目を輝かせる。

 そう来たか……。


 マネージャー聖女さんは、俺を打撃練習用投手としてこき使うつもりだな?


 実際俺も、この能力はバッピとして真価を発揮すると思う。


 対戦相手がどんな変則的なピッチャーをようしていても、大体再現できる。


 事前に打撃練習し放題だ。


 ……背の高いピッチャーだけは、再現不可能だけど。




「忍! 野球漫画の主人公を再現してくれ! 打ってみたい! 本格派右腕で、ストレートのMAXは152km/h。高速スライダーと140Km/hのフォークを混ぜて!」


「俺も俺も! 左のサブマリンで速球派。浮き上がって見える球とシンカー、サークルチェンジを投げる奴をオナシャス!」


「消える魔球と、七色に光って分裂する魔球と、270km/hの豪速球を投げろ」


「お前ら……俺のことをなんだと……」


 バットを持って、ワラワラと集まる部員達に呆れてしまった。


 ……ったく。

 野球漫画オタクどもめ。




「相手してやりたいところだけどさ、俺と憲正と優子はこれで上がらせてもらう」


「え~! なんか用事でもあるのか?」


 遊撃手ショート小鳥遊たかなしは不満そうだ。


 やる気満々で、素振りしてたからな。






「有力な新入部員の勧誘に行ってくる」


 今夜は約束の日だ。


 がわと勝負をする。





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