第28話 アスリートなら、スポンサーに自らの価値を示せ

「その問いには、なんと答えていいのやら……。半分は正解、かな?」




 かなおい氏は、眼鏡を指で押し上げる。


 特に強そうには見えないけど、言い表しようのない凄みを感じるぜ。


 やはり異世界と、関係がある人間なんだ。


 こないだ魔王竜デイモスドラゴンを召喚した、青いローブの少女。

 あいつの仲間かもしれない。




「きみたちはさっき、『同類』だと言ったな? それはつまり……」


「ええ、そうです。あなたと同じように、異世界へと召喚されました」


 同じ異世界関係者に、黙っていても仕方ない。


 俺は構えを解かないまま、自分達のいきさつを語り始めた。


 剣と魔法の異世界アラミレスに召喚され、3年間冒険したこと。


 魔神サキを討伐したこと。


 その後は地球に戻ってきて、普通の高校生として生活していること。




「異世界アラミレスか……。そんな名前の異世界も、あるんだな」


「金生さんは、違う異世界だったと?」


「ああ、ナロハイファンという。それに俺は、召喚されようとして未遂に終わった」


「えっ? それではなぜ、全身から異世界の匂いがするんですか?」


「たぶん、【女神の加護】の匂いだな。きみたちのスキルやレベルと同じようなものだ。これを魂に仕込まれて、魔王討伐の鉄砲玉として異世界に派遣される予定だった。魔王が現地の勇者に倒されて、異世界派遣は中止になったが」


「金生さんも、何か超人的な能力を?」


「俺の場合は、『財力チート』ってところだな」


 なるほど。

 このお金持ちっぷりは、女神様の力によるものか。




 アラミレスの関係者じゃないなら、敵である可能性は低いな。


 俺と優子は、武器を【アイテムストレージ】に戻した。




「失礼しました。魔神軍の生き残りが、関与している可能性も捨てきれなかったので」


「構わない。警戒するのは当然だろう。しかし、きみたちも大変だったな。高校1年生で、魔神討伐なんて重責を背負わされるとは。異世界関係者はもう少し考えて、地球人を召喚して欲しいものだ」


「ご……ごめんなさい」


 いきなり、部屋の隅にいたメイドさんが謝った。


 紫色の髪と瞳を持つ、神秘的な雰囲気のメイドさんだ。




「金生様。まだ根に持っているんですか? お金持ちになってハッピーな人生を送れているんだから、結果オーライじゃないですか。加護を授けた私に、もっと感謝してもいいと思います」


 ええっ!?

 金生さんに加護を授けたってことは、このメイドさんって女神様!?


 全然気づかなかったぞ?


 ああ。

 注意深く観察すると、人間じゃない力を感じる。

 魔神サキに近いけど、禍々しさは感じない力だ。




「俺は独り身のオッサンだったからいいですけど、この子達はまだ若い。親元から連れ去り、異世界で過酷な魔神討伐を強制するなどもっての外です」


 俺達のことを心配してくれるなんて、このオッサンはいい人だな。


 だけど……。




「金生さん。いきなり召喚されて、確かに戸惑いはしました。だけど俺達は自分の意思で、魔神討伐を決意したんです」


 これだけは言っとかないとな。


「それに俺達を召喚したプリメーラ姫は、自分も魔神討伐の旅に同行してくれました。危険を異界から来た勇者に丸投げして、高みの見物を決め込んでいたわけじゃない」


 あっ。

 メイド女神さんが、胸になんかグサグサ刺さったリアクションをしている。


 この女神様は、金生さんに魔王討伐を丸投げする気満々だったんだな。




「ふっ……。きみたちは、大人だな。俺が高校1年生だった頃は、自分の夢しか見えていないガキだったよ」


「異世界で3年間過ごしたんで、精神年齢は18歳だったりするんですよ」


「なるほどな。……そういえばきみたちは、何の用件で俺を訪ねてきたのかな?」


「……すっかり忘れていました」




 俺と優子は、くまかど高校野球部が置かれている現状を説明した。


 グラウンドを使える日が週3回しかなく、練習が足りていないこと。


 使えても狭く、けんせいがわが場外弾を連発して近所迷惑になってしまうこと。


 だから金生さんの私設ドーム球場を、使わせて欲しいということ。




「事情はわかった。甲子園か……。夢を追う若者は、応援したい。しかしドーム球場を稼働させるには、莫大なお金がかかる。照明や空調設備の電気代。グラウンドの整備費。稼働させるスタッフの人件費。タダで使わせるわけには、いかないな」


 もちろん、わかっている。

 金生さんにとってははしたがねだとしても、なんの対価もなく使わせてくれってのは虫が良すぎるだろう。


 俺達が対価として用意しているのは、異世界から持ち帰った不思議アイテムの数々だ。


 【鑑定魔法】と同じ効果を発揮できる、【スカウティングオーブ】。


 地面から浮かび上がり、滑るように飛行できる【シルフボード】。


 装着者の成長を著しく促進する、【魂育の首飾り】。




 これらのファンタジーアイテムは、地球でも問題なく作動することを確認している。


 最初は地球上に存在しない宝石とかだけ、渡すつもりだった。

 だけど相手が異世界のことを知ってるなら、ビックリ魔導具とかまで見せてもいい。


 お金だけでは手に入らない、珍しいアイテム。

 所有してみたいはずだ。




 【アイテムストレージ】からこれらを取り出そうとした時、金生さんは意外なことを言い出した。




「お金のかかるドーム球場をきみたちに使わせるということは、資金援助スポンサードすることと同意だ。アスリートが企業などからスポンサードを受けるためには、通常どうする?」


「それは……。大会に出て、結果を残したりだとか……」


「そうだ。だがきみたちには、もう夏の県大会までに出られる大会がない。他の方法で、スポンサードを受けるに相応しい選手だと示してもらわないといけない」




 背後から、風切り音が聞こえた。


 振り返ると遠藤先輩が、金属バットで素振りをしている。




はっとりくん。きみはエースピッチャーだったな? 我が家の身体能力フィジカルチートなメイドをうち取れたら、全面的なバックアップを約束しよう」






○●○●○●○●○●○●○●○●○






 ロールスロイスに乗せられて、屋敷と同じ敷地内にある私設ドーム球場へとやってきた俺達。


 ……デカい。


 昔、福岡ドームまでプロ野球の試合を観にいったことがある。


 あれと変わらない規模だ。


 建設に、何億円使ったんだ?




 マウンドに立ち、周囲を見渡す。


 青々とした人工芝。

 今は無人だけど、圧倒的収容数を誇る観客席。

 ギラギラと輝く照明。


 俺はプロ野球選手志望じゃない。

 だけど華やかな場所でプレーすることに、憧れがないわけでもない。


 ドーム球場は興奮する。






「服部くん。優子ちゃん。制服のままじゃ投げにくいだろう? 着替えるなら、ロッカールームに案内しよう。トレーニングウェアも貸し出すぞ」


「いえ、お構いなく。俺達はこんな方法で、着替えられますんで」




 金生さんの眼前で、【装備換装魔法】を発動。




 俺と優子は一瞬で、熊門高校野球部のユニフォームへと衣装チェンジした。





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