第14話 拙者、ショタがスパダリ化して溺愛してくるの大好き侍。義によって、助太刀いたす。by聖女

「公園や裏山が、何ごともなかったかのように……。信じられないな……」


がわ。驚いてるけど、お前だってもうこっち側の人間だぜ? ちょっとジャンプしてみろよ」




 げんそうな表情をしながらも、五里川原はその場でジャンプしてみせる。


 本気ではなさそうな軽い跳躍だったのに、10mは飛び上がった。




「……マジか?」


 ふわりと着地した五里川原は、困ったようにこめかみを揉んだ。


「マジだ。レベルアップすると、身体能力が劇的に上がる」


「オレのレベルは、38まで上がったとか言ってたな? 38というのは、人類としてどれぐらいの位置なんだ?」


「あっ、それね。ウチのパパにこっそり【鑑定魔法】をかけたら、レベル18だった」


「マネージャーの父親って、普通の会社員とかか?」


「元プロ野球選手よ。ひじりきゅうっていうんだけど……。知らない?」


「知ってる。日本人離れした、化け物守護神クローザーの2倍以上か……」




 五里川原は天を仰いだ。

 いきなり超人的な力を手にしたら、戸惑うのも当然か。


 俺達のパーティは、いきなりじゃなかったもんな。

 異世界で3年間冒険をして、戦いの中で徐々にレベルを上げていったんだ。




 俺は五里川原の肩を叩いた。


「こんなに超人的な力を手にした以上、野球やるしかないぜ」


「何でそうなる?」


 ぬっ?

 こいつ、ごねる気か?


 野球に未練があるくせに。




「そう言えばしのぶとゴリくんって、1打席勝負の途中だったわね。カウントツーナッシングで」


 すっかり忘れていた。


 まだ決着は、ついていない。




「せっかくだ、はっとり。勝負の続きをするぞ。オレを打ち取れたら、野球部に入ってやる」


 おっ!

 やった!


 ちょっと条件が変わったぞ。


 1打席勝負を始める前は「力を見極める」とかなんとかもったいぶってたのに、負けたら野球部に入るとはっきり言いやがった。




「ゴリくん、そんなこと言っていいの? 私、【宣誓魔法】っていう約束を強制的に守らせる魔法使えるんだけど……」


「そんな恐ろしい魔法まであるのか……。構わん。かけろ。負けたら大人しく、軍門に下る。服部の舎弟にもなってやろう」


 いえ、舎弟なんて別に要らないです。

 普通に入部してくれるだけで結構。


 そう言いたかったのに、優子は【宣誓魔法】を発動させ……。


 ん?

 いつもの【宣誓魔法】とちょっと違うような。


 銀色の稲妻エフェクトは出たけど、ビリっとこない。




「勝負を再開する前に、パワーアップをさせてもらうぞ。たしかスキルポイントとやらを、振り分ければいいんだったな」


 五里川原は光のウィンドゥをタップし、ポイントを振り分けていく。




 【動体視力UP】

 【反応速度UP】

 【瞬発力UP】

 【筋力UP】




「あっ、五里川原くん。【剣術】スキルや【杖術】スキルを取れば、スイングスピードやバットコントロールが格段に上がるよ」


 おい憲正。

 そんなに五里川原を強化したら、勝負に負けるかもしれないじゃないか。


 五里川原は素直に憲正のアドバイスを聞き入れ、【剣術】スキルも【杖術】スキルも取得しやがった。


 こりゃ、厄介だな。

 味方になってくれれば、頼もしいけど。


 再び五里川原が、右打席の位置に立った。


 中断前より、まとう殺気が増している。




「五里川原……。お前はもう、俺達と同じ側の人間だ。だから俺も、リミッターを外していく。公式戦では使えないような、人外の球で相手をするぜ」


 【とうてき】スキルの力を、フルに使う。


 球が音速を超えた時の衝撃波は、優子の【結界魔法】で消してもらおう。




 ワインドアップモーションからのトルネード投法。




 唸れ、俺の左腕。




 コースはど真ん中。




 正真正銘、全力投球。




 球速はマッハ7。




 電磁加速砲レールガンじみたストレートは、憲正のキャッチャーミットに突き刺さる。




 五里川原は、バットを振らなかった。




「痛たたた……。優子が魔法で守ってくれなかったら、手の骨が折れてたよ。キャッチャーミットも、破けていたかも? うわぁ。【装備品保護】スキルがあるのに、ボールがバラバラだ」


 憲正がミットから手を抜き、ふうふうと息を吹きかける。


 キャッチャーミットが無事で良かった。

 高いからな。


 硬球だって結構高いけど、ミットに比べたらまだマシだ。




「こんなに凄い球は、初めて見た……。オレの負けだ」


「野球部に、入ってくれるか?」


「【宣誓魔法】とやらをかけたんだろう? 仕方ない、入ってやる」


「よっしゃ。期待してるぜ、五里川原。動画で見たお前の豪快なホームラン、俺は好きだぜ。試合でたくさん、見せてくれよな」


「わかった、兄貴」


「……兄貴?」


「負けたら舎弟になるとも、約束しただろう?」


「いや、その呼び方はちょっと……」


あねの【宣誓魔法】には、逆らえないからな。我慢しろ」


 優子が姉御……。


 嫌がるかと思えば、あねさん聖女はまんざらでもなさそうだ。

 ニコニコしている。




「それじゃあ、オレは帰るぞ? 兄貴、明日の朝練は?」


「朝練? グラウンドの使用許可が下りないから、やってないんだ」


「なんだそれは? そんなんで甲子園を目指す気か? 主将なんだろう? 朝練許可をもらえるよう、顧問に掛け合うとかしろ。しっかり頼むぜ、兄貴」


「お……おう」




 スタスタと早足で、五里川原は帰っていく。


 まだ異世界とかレベルとか魔物について、全然説明していないのに。


 なんかあいつ、ウキウキしてね?




 ヤンキーゴリラの姿が見えなくなったあと、優子に話しかけた。


「お前の【宣誓魔法】って、効果絶大だよな」


「ゴリくんには、使ってないわよ? 使ったフリをしただけ」


「……へ?」


「野球に戻りたいのに、変な意地張ってるのがミエミエだったから。【宣誓魔法】で、強制されたってことにしてあげたの」


 なんとまあ……。


「じゃあ俺のことを、兄貴呼びするのは?」


「お兄さんの代わりに、自分の活躍を見せる対象が欲しかったんじゃない? ……兄貴なんて呼ばれているのを聞いたら、かん先生が妄想を爆発させそうよね」


 うっ!

 野球部顧問のとよやま甘奈先生は、腐の者だからな。


 野球部顧問を引き受けたのも、とある野球漫画のBL二次創作にハマったかららしい。


 兄貴呼びされてるのなんか知られたら、趣味の同人誌づくりがはかどってしまうに違いない。




「忍、あくまで女房役は僕だからね。打撃でも五里川原くんより、チームに貢献してみせるよ」


「あら憲正、ゴリくんに嫉妬してるの?」


「優子、やめれ。なんで女子ってのは、そういう話が好きなんだ」


「私はBLより、TLのオネ×ショタものが好きよ。特にショタがスパダリに成長して、溺愛してくるやつ」


 それもやめろ。

 TLとか、エロいだろうが。


 俺達は健全な男子高校生なんだぞ?

 ドキドキしちゃうじゃないか。






 気まずくてうつむく俺を置いて、優子は駆け足で帰路につく。


 長い石段を下りる前に振り返り、笑いかけてきた。




「ホント男の子って、メンドくさくて可愛いわよね」





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