第47話 あなたみたいなショタ王子が、うかつに「何でもやる」なんて言っちゃダメよ?

「賭けって……、どんな賭けだよ?」


「スキルやレベルの力を封じられていても、我がせいがくしゃに勝てると豪語しおったな。ならば負けた時は大人しく、われつがいになるがよい」


「なんでそうなるんだよ……。賭けなら、俺が勝った時はどうなる? メジャーリーガーのサインボールでもくれるのか?」


「我の身も心も、お主に捧げよう」


「いらね」


 俺が欲しいのは、ひじりゆうなんだよ。




「それじゃ、魔神サキ。しのぶの代わりに、私と賭けをしない?」


 優子……。

 俺は何だか、嫌な予感がするぜ。


 お前、とんでもないことを言い出したりしないだろうな?




くまかど高校が聖魔学舎に負けたら、私はあなたの配下になる。忠誠を誓うわ。地球征服でもなんでも、喜んでお手伝いする」


 ほら、やっぱりとんでもないことを言い出した。


 異世界アラミレスでは救世主として崇められている【聖女】が、地球征服の先兵になるなんてイメージ悪すぎる。




「その代わり私達が勝ったら……。魔神サキ、あなた私の使い魔になりなさい」


 勝利した時の要求は、さらにとんでもなかった。


 魔神を使い魔にする【聖女】……。

 前代未聞過ぎる。




 だけどちょっと安心した。


 こんな無茶苦茶な条件の賭け、サキが呑むはずない。




「地球征服など、今のところどうでもよいのだが……。いいだろう。【聖女】ユウコが配下になるというのは面白い。配下になったら、無茶な仕事を振りまくってやる。そして失敗したら、厳罰に処す。ケツバットだ」


 呑むのかよ!


 サキの奴……。

 控室で食らったケツバットを、相当根に持ってやがるな。




「そ・れ・に・だ。シノブ・ハットリを手に入れるために、最も邪魔なのは【聖女】ユウコだからな。配下になれば、逆らえぬ。邪魔はできまい。お主の見ている前で、シノブ・ハットリを食らってやる。もちろん、性的な意味でだ。NTRだ」


 いや、サキ。

 NTRの使い方を、間違ってるぞ?


 NTRって、「寝取られ」って意味だろ?


 優子が俺のことを異性として好きじゃなきゃ、NTRにならない。




「おい! やめろ優子! そんな無謀な賭けは……」


「忍。無謀じゃないわ。勝算はある。それに私は、サキを使い魔にする必要があるの」


 優子はチラリと、視線をプリメーラ姫とけんせいに走らせる。




 ……そうか!

 そういうことか!




 優子はプリメーラ姫を異世界へ返すために、魔神の力を利用するつもりだ。


 俺らを異世界に呼び寄せたプリメーラ姫の【勇者召喚魔法】も、サキの魔力を利用して発動したと聞く。


 それにサキの奴はたぶん、ある程度自由に世界の壁を越えられる。

 プリメーラ姫が【異世界転移魔法】でこっちに来たみたいに、大量の魔石などの媒介は必要としないんだろう。


 俺達に敗北して地球に逃げ延びたり、異世界の魔物である魔王竜デイモスドラゴンを召喚できたことが根拠だ。


 サキを使い魔として使役できれば、憲正やプリメーラ姫も自由に異世界と地球を行き来できるかもしれない。


 憲正が向こうの世界に旅立っても、それが一生の別れにならずに済む。




「サキ……。あなたに力を封じられた私は、【宣誓魔法】が使えない。この賭けは、単なる口約束になってしまうわね。もっともあなたの力なら、【宣誓魔法】にも抵抗レジストしてしまうんでしょうけど」


「ふん、口約束だと? 我の力と矜持を侮るな。魔『神』なのだぞ? お主の言う【宣誓魔法】とは、このようなものを言うのであろう? ぬうん!」




 サキが右手を振るうと、青い稲妻が優子を貫いた。


 慈愛と安息の女神ミラディースの力を借りる、【聖女】の【宣誓魔法】そっくりだ。




「くくく……。我の莫大な魔力で、強力な呪法をかけた。聖魔学舎が勝てば、【聖女】ユウコは我が配下に。熊門が勝てば、我はユウコの使い魔となる。我自身にも、呪法には逆らえぬ」




 なんてこった。

 何が何でも、聖魔学舎に勝つ必要が出てきたぞ。


 優子は勝算があるって言ってたけど、どうするつもりなんだ?




 監督様の表情を伺おうとした時、球場内にアナウンスが流れた。




『迷子のお呼び出しを申し上げます。聖魔学舎のまのかみ監督。魔神彩季監督。部員の皆様がお待ちです。至急、総合案内までお越しください』


「ぬわー! 誰が迷子だ!? てっしんめ! あれほどお子ちゃま扱いはやめろと言ったのに! 我は53万飛んで11歳だぞ! ……今日はこれでさらばだ。明後日の決勝を、楽しみにしておるぞ!」




 いつもの如く、魔神サキの姿は一瞬で掻き消えた。


 後に残されたのは熊門野球部一同と、顧問のかん先生。

 そしてプリメーラ姫だ。




「なあ優子。お前、勝算があるみたいなこと言ってたよな? 教えてくれないか? どんな作戦を考えているんだ?」


「忍がスーパーピッチングをして、完全試合パーフェクトに抑えるのよ」


「全然作戦になってねえ……」


「最後まで話を聞きなさいよ。……スキルやレベルの力を取り戻す方法に、心当たりがあるのよ」




 何だって?


 もし本当に【とうてき】スキルがまた使えるのなら、優子の言うようなスーパーピッチングも可能になる。




「【交合魔力循環】っていうの」




 その言葉を聞いた瞬間、プリメーラ姫が「あっ!」と声を漏らした。

 姫も知っている方法らしい。


 コウゴウマリョクジュンカン?

 どんな字を書くんだろう?




「それはスキルやレベルの力を封印されている俺でも、使えるものなのか?」


「たぶん、大丈夫よ。私達は魔法とかも使えなくなったけど、魔力そのものを失っているわけじゃなさそうだし。【交合魔力循環】を行うと、体内の魔力が巡る。それに伴って、魂の力が激しく渦巻くの」


 そうか。

 スキルやレベルは、魂の力。


 力を循環させてやれば、スキルやレベルの封印が解ける可能性は高い。




「優子、教えてくれ。コウゴウマリョクジュンカンとやらを行うには、どうしたらいい? どんなにキツイ解呪方法でも、俺は耐えてみせるぜ。何でもやる」


「忍……。本当に、何でもやるのね?」


「ああ。男に二言はないぜ」


 このまま聖魔学舎に負けたら、優子が魔神の配下にされてしまうんだ。


 そんなことは、絶対にさせない。


 


「そう……。かん先生。この後は学校に帰ってミーティングの予定でしたけど、私と忍は家に直帰します」


「わかったのです。何をするつもりなのかわからないですが、頑張るのです。応援しているのです」


「プリメーラは憲正に、【交合魔力循環】をほどこしてみて。どうせ異世界では、何度もやってたでしょう」


「ゆ……ユウコ……。あんまり人前で、そういうことを言わないで欲しいものですわ。……しかし、場所はどうしましょう? 【交合魔力循環】を行うのに、適した場所が……。わたくし、地球の地理はわかりませんし」


「プリメーラ。僕の家に来るといい。今夜は両親が、旅行中でいないから……」


「まあ。ケンセイ様の御自宅に? ドキドキしてしまいますわ」


「……というわけで、憲正もプリメーラと一緒に自宅直帰ね。みんな! あとは頼んだわよ!」




 優子は俺の手を引っ張り、ツカツカと歩き出す。


 球場の敷地外へ出るとすぐにタクシーを止め、聖邸へと向かい始めた。






 タクシーの中で優子は、俺の方を見ようとしない。

 ずっと窓から、流れる景色を見ていた。


 緊張しているな。


 コウゴウマリョクジュンカンっていうのは、そんなに恐ろしい解呪方法なのか?




 「何でもやる」とは言ったものの、ちょっと怖くなってきた。





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