第48話 好きな女の子にエロ本を発見されるのと、好きな女の子の部屋でエロ本を発見してしまうのはどっちが気まずいだろう?

 タクシーで、ひじりていに着いた。




 俺が財布を出して料金を支払おうとすると、先にゆうが支払ってしまう。


 しっかりと、領収書を受け取っていた。


 なんでも後から、必要経費としてかなおいさんに請求するらしい。




 豪邸の門が、電動で勝手に開く。


 中からきゅう師匠が出てきて、出迎えてくれた。


 この人、テレビ出演とかの仕事がない時は暇人なんだよな。

 だいたい家にいる。


 「無職」って言うといじけるから、言わないようにしていた。




「よぉ~! やったな! テレビで観てたぜ。決勝進出、おめっとさん。優子たんナイス采配。しのぶもナイスピッチン。あれだよ、あれ」


「ありがとうございます、師匠」


「パパ……。今から私、忍と大事な儀式をするの。絶対に私の部屋……ううん。2階まで上がってこないでね」


「何だと! ……ついにこの日が来たか。いいか? 優子たん、忍、耳の穴をかっぽじってよく聞け。避妊はしっかりするんだぞ」




 優子は持っていたスポーツバッグを、父親の顔面に叩きつけた。


 今のは師匠が悪い。




 豪邸内に入り、2階への階段を上がろうとする。


 そこで優子のお母さんである、ひかるさんとも遭遇した。




「あら、優子ちゃん。忍ちゃん。お帰りなさい。試合、勝ってよかったわねぇ。忍ちゃん、晩御飯をウチで食べていかない?」


「ママ。これから私と忍は、大事な儀式で部屋にこもるわ。晩御飯は要らない。絶対2階に、上がってこないでよ」


「あらあらあら。まあまあまあ。これはお赤飯炊かないといけないかしらねぇ。優子ちゃん。忍ちゃん。避妊はしっかりするのよ」


 光さんまで……。

 聖夫妻ときたらもう……。


 父親の時とは違い、優子は母親にバッグを投げつけたりしなかった。


 代わりに黙ってうなずく。


 もういちいち反応するのも、疲れたんだろう。


 コウゴウマリョクジュンカンとやらが終わった後、誤解を解いておけばいいか。




 2階にある自室に俺を連れ込むと、優子は鍵をかけた。


 両親とはいえ、これから行う儀式を見られるわけにはいかないらしい。


 そりゃそうだな。

 俺も家族には、異世界関連のあれこれを秘密にしているし。




「あっ。そう言えばコウゴウマリョクジュンカンって、どれぐらい時間かかるんだ? 夜遅くなるなら、家に連絡しておかないと」


「私が連絡するわね」


 優子はスマホを取り出すと、さっさとはっとり家への通話を始めてしまった。


 俺の親への連絡なのに……。




「あっ、もしもし? まいさん? 今夜忍は、ウチに泊まりま~す。……え? 大丈夫よ。分かっているわ。そういうことで、よろしくお願いしま~す」


 泊まりがけなのかよ。

 夜通しの儀式というわけか。


 明日が決勝前の休養日で、助かったぜ。


「ウチのオフクロ、何か言ってたか?」


「『避妊はしっかりしなさい』、だってさ」


 オフクロまでもかよ……。


 そういう冗談は気まずいし、心臓に悪いからやめて欲しい。




「私、シャワー浴びてくる。冷蔵庫にある食べ物や飲みものを、適当につまんどいて」


「お……おう」


 優子の自室は広くて豪華。

 大型テレビや冷蔵庫、トイレや浴室まで備えている。

 さすがお金持ち。




 大量に冷やされていた牛乳をカップに注ぎ、ベッドに腰かける。


 小さい頃から何度も遊びに来ている部屋だけど、そういや最近は入っていなかったな。


 なんか落ち着かない。

 浴室の方からシャワー音が聞こえるせいだ。

 隣で優子が裸になっていると思うと、落ち着けるわけがない。


 気を紛らわそうとして、本棚の漫画をあさった。




「……ん? 何だコレ?」


 本棚から出てきたのは、女性向けっぽい表紙イラストの本。


 キラキラした美少年が、女性に後ろから絡みついている。


 やけになまめかしい。

 この本は、ひょっとして……。




ティーンズラブTLコミックじゃねえか!」


 パラパラとページをめくって見れば、美形の男女があ~んなことやこ~んなことをしている。


 ふーむ。

 男性向けのとは、ちょっと描写が違うな。


 これはまたこれで……。


 ……じゃなくて!

 こんなもん、見える場所に置くんじゃねえ!


 ますます気まずくなっちまったよ。


 TLコミックを本棚の目立たない位置に戻し、俺は優子のベッドに寝そべった。


 くそ……。

 いい匂い。

 優子の匂いだ。


 俺の理性を、狂わせないでくれよ。




 しばらくもんもんとしていたら、優子が浴室から出てきた。




「……っておい! 何でバスタオル巻き付けただけなんだよ! ちゃんと服を着ろ!」


「これから儀式の衣装に、着替えるの。忍、あなたもシャワー浴びてきて」


「え? 俺も?」


 コウゴウマリョクジュンカンは、儀式前に身を清める必要があるのか?


 優子の部屋でシャワーを浴びるというのは、緊張する。


 だけど有難くはある。


 俺はくに学院との試合で、9回を投げ抜いたあとだからな。


 汗は洗い流したかった。


 幸い着替えは、スポーツバッグに入れている。


【アイテムストレージ】に入れなくて良かった。


 魔神サキに力を封じられて、【アイテムストレージ】も使用不可能になっちまったからな。




 シャワーを浴びてさっぱりした俺は、浴室を出た。


 ……ん?


 何で部屋の照明が、落としてあるんだ?


 優子はどこへ行った?




 借りたバスタオルで髪を拭きあげていると、背後から声をかけられた。




「忍……。今から【交合魔力循環】について、説明するわ」


 振り返って驚いた。


 優子は俺の指示通り、服を着てはいた。


 ただその服装が、普通じゃない。


 過激なスケスケのベビードールだ。


 暗い部屋の中でうっすら光る、優子の長い足。


 思わずゴクリと唾を飲み込む。




 どうして半裸みたいな服装なんだよ。


 これが儀式の衣装か?

 ただのセクシーランジェリーにしか見えない。




「『コウゴウ』は、交わり合うって書くのよ」


「ちょっと待て! 『交わり合う』と書いて、交合だって? それってつまり……」


 コウゴウマリョクジュンカンという言葉を聞いてからずっと、可能性は考えていた。


 だけど必死で頭から振り払い、否定してきたんだ。


 勘違いだったら、ものすごく恥ずかしいし。




「そうよ。『交合』っていうのは、男女の交わり。【交合魔力循環】は、夜のいとなみをしながら互いの魔力を交換する手法」




 心臓が、早鐘を打つ。


 優子が近づいてきた。


 潤んだ瞳に吸い込まれそうだ。


 両手が俺の肩を押す。


 大して力を入れているわけでもないのに、抵抗できない。


 押されるがままに後退。


 そのままベッドに押し倒された。






「忍……。あなたの童貞を、私にちょうだい」





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