第9話 ゴリラ無双。安らかに眠れ釘バット
俺は
何で別れたかというと、1人の方が見つかりにくいからだ。
【
これは周囲から、認識され
忍者の
五里川原を野球部に引き入れるとしても、人柄を見定めてからにしたかった。
人を見た目で判断してはいけないと思うけど、あのツンツン赤頭だからなぁ。
素行が悪かったら、野球部全体が不祥事に巻き込まれる危険がある。
せっかく先輩達を、大掃除したのが台無しだ。
それに野球をやめちまった原因を探り出して解決しないと、入部してくれないだろう。
尾行して、それらを確かめるんだ。
五里川原は学校の裏山にある、公園へと向かっていく。
途中、山を登る長い石段があった。
奴は軽々と登っていく。
その姿を見ただけで、強い足腰と体幹、バランス感覚を備えているのがわかった。
やがて五里川原は石段を登り切り、公園の広場へと出る。
後から続いた俺は、見つからないよう素早く木の陰に隠れた。
「よぉ~、ゴリラぁ~。逃げずによく来たなぁ~。褒めてやるぜェ~」
五里川原の周囲を、不良グループが取り囲んでいた。
数は15人もいる。
それぞれが鉄パイプやチェーン、木刀で武装していた。
「言われた通り、来てやったぞ。そいつを解放しろ」
よく見れば小柄な少女が、不良グループに取り押さえられていた。
見るからに、文学少女といった雰囲気の子だ。
優子と同じ制服を着ている。
「五里川原
「気にするな。こいつらのアカウントは、ブロックする」
この文学少女は、五里川原の友達か?
赤髪ゴリラヤンキーと、文学少女。
あんまり合っていないような?
「ゴリラぁ~! テメェうちの高校のモンに、舐めた真似してくれたそうじゃねえか。ありゃあ俺の舎弟なんだよ」
不良達のリーダー格っぽいロン毛の男が、ナイフをぺろりと舐めながら五里川原に呼びかけた。
「熊門の生徒相手にカツアゲしていたのを見かけたから、軽く遊んでやっただけだ」
「何が『軽く遊んでやった』だ! ボコボコにして、生ゴミの入ったポリバケツに押し込んだって話じゃねえか!」
「ゴミはゴミ箱にって、親から教わらなかったのか?」
ふーむ。
話を聞いていると、五里川原ってそんなに悪い奴じゃないのかもな。
でも、アスリートがやたら喧嘩するのはよろしくない。
異世界で、散々殺し合いをしてきた俺が言うのも変だけど。
「ふざけたゴリラだ! 野郎ども! やっちまえ!」
まるで時代劇の悪代官だな。
ロン毛リーダーの号令で、手下どもが五里川原を取り囲んだ。
いや、取り囲もうとした。
「おい! 逃げんなゴリラ!」
五里川原はいきなり不良グループ達に背を向けて、走り出した。
速い。
巨体なのに、かなりの俊足だ。
当然、不良グループどもは走って五里川原を追いかける。
「待ちやが……えっ!?」
いきなり五里川原は急停止して、不良どもに向き直った。
先頭を走ってきた足の速い奴を、ワンパンで叩き伏せる。
それよりちょっと遅れて追いついてきた奴は、前蹴りで悶絶させた。
こいつ。
筋力や敏捷性が凄いだけじゃなくて、賢いな。
わざと少し逃げて追って来させ、敵が足の速さ順にバラけるよう仕向けやがった。
走っては急停止し、相手をぶっ飛ばす。
そしてまた走っては振り返り、確実に敵を減らしていく。
15人いた不良グループは、あっという間に残り5人まで減った。
これなら俺が出て行って、加勢するまでもないか?
「おおーっとぉ! そこまでだ、ゴリラ野郎!」
ロン毛リーダーの声だ。
奴は文学少女の腕をねじり上げ、ナイフを突きつけていた。
「動くなよ? 動いたらこの女の制服を切り刻んで、全裸にひん剥くぜ?」
文学少女は毅然とした表情を崩さないけど、顔色は悪い。
五里川原は立ち止まった。
両手もダラリと下げてしまう。
「わかった。もう抵抗しない。そいつに危害を加えるな」
「ああ~!? 『危害を加えるな』だぁ!? テメェ、何命令してんだよ!? 自分の立場が、わかってねえようだな!?」
ロン毛リーダーの目配せを受けて、モヒカンヘアーの男が五里川原ににじり寄った。
手には釘バットが握られている。
それを見た五里川原の表情に浮かんだのは、恐怖じゃない。
怒りだ。
バットに釘を打ちつけ、凶器へと改造した奴らに怒っている。
ああ。
五里川原はまだ、ベースボールプレイヤーなんだな。
わかるぜ。
俺も腹が立つ。
「五里川原君。わたしのことなんて構わずに、逃げてください」
文学少女は悲壮な声で言うが、五里川原は微動だにしない。
釘バットが振り上げられる。
モヒカン男は、五里川原の頭をかち割る気満々だ。
もちろん、そんな真似はさせないけどな。
俺は【アイテムストレージ】から、ボールを取り出した。
普通の硬球だ。
あの釘バットはもう、本来の役目に戻れない。
ならばせめて、野球のボールで終わらせてやりたい。
俺は隠れていた木から飛び出し、クイックモーションでボールを放った。
非常時なので、人外の球速で。
256km/hだ。
俺の投げたボールにより、釘バットは根元から切断された。
「……へ?」
モヒカン男は、突然折れた釘バットに呆然としていた。
五里川原はボールの軌道が見えていたみたいで、俺が投げたポイントに視線を走らせる。
だけどもう、そこにはいないんだよな。
「……え? 誰ですか? あなたは? あら? 私、捕まってナイフを突きつけられていたはずなのに……」
俺は文学少女を、横抱きにかかえていた。
自分の手元からいきなり人質が消えて、ロン毛リーダーは戸惑っている。
別にワープしたとかじゃないぜ?
普通に素早く動いて、かっ
文学少女が救出されたとわかってから、五里川原の行動は速かった。
残っていた不良グループ5人のうち、4人を一瞬でぶっ飛ばす。
「ま……待て! 俺のことを知らないのか!? 俺のバックには……」
「知らん」
ロン毛リーダーが何か言おうとしていたけど、五里川原は問答無用で拳を振るった。
人間が、紙切れのように宙を舞う。
おおーっ。
こいつなら異世界行っても、低レベルの魔物とはいい勝負ができそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。