【異世界帰りの勇者パーティによる高校野球蹂躙劇】~野球辞めろと言ってきた先輩も無能監督も見下してきた野球エリートもまとめてチートな投球でねじ伏せます。球速115km/h? 今はMAXマッハ7ですよ?~

すぎモン/ 詩田門 文

第1話 1年1組、服部忍。中学時代は軟式野球部で、ピッチャーをやってました。異世界時代は勇者パーティで、忍者をやってました

 突然だけど俺は今、野球部の部室で正座させられている。




「チビワカメ……。てめえら昨日は練習サボって、どこに行ってやがった?」


 チビワカメってのは、俺のあだ名。

 ナチュラルウェーブがかかった髪を伸ばしているから、海藻っぽく見えるらしい。

 んで身長が161cmと、投手ピッチャーとしては低いからチビワカメってわけだ。


 クソッタレが。

 背が低いの、気にしてるんだぞ?

 ムカつくあだ名を付けやがって。


 俺にははっとりしのぶっていう、立派な名前があるんだよ。




「どこで何をしてたのかって、聞いてんだよ」




 そう言いながら、竹刀しないで小突いてくる3年生部員ははつじょう


 鬼のような形相で凄んでいるけど、恐怖は感じない。


 とかに比べたら、全然だ。




「どこって……。異世界で、魔神と戦ってました」




 隣で同じく正座させられていた、眼鏡ノッポが俺を見る。

 彫刻みたいに整った顔が、ギョッとしていた。

 


 このイケメン眼鏡はけんざきけんせい

 幼馴染にして親友。

 小学校の頃からバッテリーを組んできた、相方捕手キャッチャーでもある。



 憲正だけじゃない。

 俺達を取り囲んでいた2、3年生の先輩達も、驚いて目を見開いた。




「異世界だと!? 異世界……異世界ねえ……」




 先輩達は凄んでいたかと思ったら驚いて、驚いたかと思ったらヘラヘラと笑いだしやがった。


 そして俺の正面に居た初条の奴は、笑っていた状態からいきなり竹刀を振るった。


 俺の顔面を狙った一撃。


 ハエが止まるほど、遅く見える。

 だけど避けたら、先輩達の神経を逆なでするだろう。


 大人しく、殴られてやることにした。


 かなり大きな破裂音が鳴り響いたけど、全然痛くない。


 竹刀の方が、じんだったりする。




「チッ! 剣道部の奴め! 腐った竹刀を寄越しやがって!」




 初条は舌打ちしながら、折れた竹刀を投げ捨てた。


 いや。

 その竹刀は別に、腐ってなかったように見えるけど……。


 つーか剣道のけいや試合でもないのに、竹刀で人を殴るんじゃない。

 立派な暴力事件だ。


 だけどおもてにはしたくない。

 不祥事を起こしたのは先輩達でも、処分されるのは野球部全体。

 巻き添えで、部活動停止とかになるのはゴメンだ。




「何が異世界だ! ふざけてんじゃねえぞ! 1年坊ども!」




 いけね。

 ついつい昨日見た夢のことを、言ってしまった。




「ふざけたことぬかす1年坊どもは、罰走だ。学校の周りを100周。終わるまで、ボールには触らせねえ」




 ため息しか出てこない。

 罰走とか、昭和か?


 こういう体罰的なやつは、マスコミとかに嗅ぎつけられたら問題になるぜ?

 

 しかも学校の周り100周だって?


 野球は瞬発力のスポーツだ。

 ウォーミングアップとかならともかく、トレーニングとして長距離のロードワークは効果が薄い。


 どうせ走らせるのなら、ダッシュとかベースランニングとかの方がいいと思う。




 先輩達は、ニヤつきながら俺と憲正を見下ろしていた。


 学校の周り100周という無茶に、俺達が絶望するのを期待していたんだろう。


 だから期待通りの反応は、してやらない。

 俺は性格が悪いからな。




「わかりました。チャチャッと終わらせて、キャッチボールに入りますね。……憲正、行くぞ」




 隣に正座させられていた眼鏡ノッポを立たせ、俺達は部室をあとにした。


 呆気にとられている先輩達の反応が、なかなか面白かった。






○●○●○●○●○●○●○●○●○






 俺達が通うくまかど高校の外周は、1周が1kmある。


 つまり100周したら100km。

 フルマラソン2本分より長い。


 普通の人間なら、走りきれる距離じゃない。


 適当に周回数を誤魔化そうとしても、カウント役の2年生部員が校門の前で見張っている。


 体は妙に軽かったので、最初からハイペースで走り始めた。

 オバちゃんが乗るママチャリを、追い越してゆく。




「忍。さっきはなんで、『異世界に行ってた』なんて言い出したの? あんなこと言ったら、先輩達が怒るのは当然でしょ?」


 俺に並走しながら、憲正が訊ねてきた。


「……そういう夢を見たんだよ。剣と魔法のファンタジー異世界に召喚されて、3年間冒険の旅をした。そんで最後は魔神を倒して、めでたしめでたしってわけだ。お前や優子も、一緒に召喚されたんだぜ」


 異世界では3年間も冒険したのに、地球では10時間しか経過していなかった。


 日が傾きかけた頃、普通に自室のベッドで目が覚めた。


 おかげで部活の練習を、サボっちまったよ。

 くそう。

 貴重な練習時間なのに、もったいないことをした。


 それにしても、リアルな夢だったな。




「……ねえ忍。それって本当に、夢だったのかなぁ?」


「何バカなこと言ってんだよ。夢に決まってるだろ? 剣と魔法の異世界なんて、あるわけない。漫画やネット小説の読み過ぎだ」


「でもさ、実は僕も見たんだよね。忍と同じ、剣と魔法の異世界に召喚される夢。それで寝過ごして、練習をサボっちゃった」


 脇の道路を走る原付バイクを追い越しながら、憲正は不思議なことを言い出した。

 こいつも、俺と似たような夢を見ていただと?




「……憲正。召喚された、異世界の名前は?」


「アラミレス。僕達を召喚した、お姫様の名前は?」


「プリメーラ姫だ。魔神を倒した俺達勇者パーティの、メンバーと職業ジョブは?」


「【剣聖】の僕、【大魔導士】プリメーラ姫、【聖女】である優子。……そして忍は【忍者】だったね」




 ……マジか?


 トラックを追い越しながら、がくぜんとしていた。


 俺が見ていた夢と、ほとんど一緒じゃないか。


 まさか野球部マネージャーの優子も、同じ夢を?




「いやいや。単なる偶然だろ? 異世界に召喚されただなんて、現実であるわけが……」


「夢だったにしてはさ、おかしくない? 僕達の身体能力」




 道路を走る車を追い越したタイミングで、自分達の異常さに気付いた。


 おいおい。

 俺は今、何を追い越した?




「ランニングでフェラーリを追い越すなんて、人間とは思えないよね。かなりのペースで走り続けているのに、全然息切れしないし。これってレベルアップの恩恵なんじゃ……」


 夢の中で俺と憲正は魔物達と戦い、打ち倒してきた。

 魔物を倒せば経験値という魂の力を吸収でき、それを一定量貯めればレベルアップできる。

 レベルアップすれば、超人的な力を得られた。


 でもそれって、夢の中だけの話だったはずなんだけどな。





 罰走の周回数をカウントしていた先輩は、半分気を失っていた。


 自動車並みのスピードで走る高校球児を見せられたら、当然のリアクションか。





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