第45話 魔神が選手を魔人に改造するから魔改造という

 俺はスタンドに行き、みんなと合流する。




 しれっとゆうの横に座り、仲良くおしゃべりしている人物に呆れてしまった。


 くまかど高校の制服に着替えた、プリメーラ姫だ。


 優子の予備制服を借りて、【装備換装魔法】で着替えたってところかな。


 胸の部分がパツンパツンだ。

 今にもボタンが弾け飛びそうで、ハラハラする。


 左隣の優子と楽し気におしゃべりしながらも、右隣に座っているけんせいの手を握り締めていた。

 しかも恋人つなぎだ。


 こ……こいつら……。

 見せつけやがって。


 引率のかん先生、イチャつきを注意しなくていいんですか?

 自分も夢中になって、姫とおしゃべりしてるけど。

 甘奈先生は、ファンタジー異世界に興味深々だからなぁ。


 姫には【言語理解】スキルがあるから、日本語ペラペラだ。




「お久しぶりですわね。シノブ様」


 やっと俺に気付いたプリメーラ姫が、座席から立ち上がって淑女の礼カーテシーを取る。


 俺も胸に手を当てる、ウィリアム王国騎士団の礼で応えた。


「お久しぶりです、プリメーラ姫。再会できて嬉しいです。しかしなぜ姫が、地球に……?」


「うふふふ……。地球への【異世界転移魔法】が完成した瞬間、抑えが効かなくなったのです。どうしても逢いたい方がいて……。王国中の魔石を魔法の媒介にして、転移してきてしまいましたわ」


 チラッと憲正を見て、頬を赤らめる。


 リア充どもめ!

 爆発しろ!


 ……この姫様、異世界への帰還方法とかちゃんと考えて来たのかな?


 怖くて聞けない。




「地球に転移するまではともかく、よく俺達を見つけられましたね」


「地球に来た瞬間、感じましたもの。皆様の魔力を。ケンセイ様の魔力を、わたくしが探知できないはずがありません。ユウコの魔力は、異なる世界まで伝わるほど強大ですし。シノブ様はいつも上手にいんぺいしてるので、探知しにくいですけど」




 ん……?


 探知できたということは、俺達って魔力を失ってはいないのか?


 魔神サキは、「スキルやレベルの力を」って言ってたしな。


 何らかの方法で、異世界の力を取り戻すことは可能なのかもしれない。


 明後日の決勝戦までには、間に合わないだろうけど。




 グラウンドに視線を向ける。


 後攻であるせいがくしゃが、シートノックを行っていた。


 公立の進学校にしては、ハイレベルな守備だ。


 さすが準決勝まで、勝ち残ってきただけはある。


 だけど……。


 何だろう?

 違和感を覚える。


 春季大会で対戦した時とは、雰囲気が違う。

 妙に余裕があるというか……。




 聖魔学舎の守備練習が終わり、今度は先攻であるやまかんの番だ。


 うーん。

 さすが私立の強豪校。


 スポーツ特待で、選手を集めているだけのことはある。


 全員体がデカいし、守備も上手い。

 ボール回しのスピードが、圧倒的に速い。


 普通に考えるなら、聖魔学舎に勝ち目はないんだけど……。




「……あら? 聖魔学舎の監督って、春から変わってるの?」


 優子に言われて気付いた。


 ノックを打っていたのは、春季大会の時にも監督だったオッサンだ。


 だけど別の人物が、ベンチで腕組みしながらふんぞり返っている。


 かなり小柄なシルエット。

 まるで子供だ。




 ……変だ。


 何で俺達の誰も、聖魔学舎の監督が変わったことに気づかなかったんだ?


 出場校のデータは、ひと通り仕入れてある。


 ベスト8あたりから、聖魔学舎もマークしていた。

 エースのふかてっしんさんは、いい投手ピッチャーだし。


 春から監督が変わっていたら、誰かが気付くはずなのに……。




 それにあの新監督。


 俺は視力に自信があるんだけど、なぜか顔がよく見えない。


 名前も思い出せない。

 事前に調べたはずなのに。


 存在が、ぼやけている?


 これじゃまるで、強力な【認識阻害魔法】を使われているみたいだ。




 んん?


 新監督がこちらを見て、ニヤリと笑ったような?




 次の瞬間、聖魔学舎ベンチから監督が消えた。




 そしてスタンドで観戦していた俺らの前に、いきなり現れる。


 え……?

 こいつは……?




「くくく……。どうだ? 驚いたか? 【認識阻害魔法】を使い続けていたから、気付けなかったであろう? 今大会で、聖魔学舎の監督はわれだ」


「ま……魔神サキ!」


「監督としての登録名は、まのかみという」




 俺ら熊門野球部一同の前に現れたのは、少女モードの魔神サキだった。


 格好は聖魔学舎のユニフォーム。


 ツインテールヘアを揺らしながら、空中にふよふよと浮いている。


 空飛ぶ少女を見て、周りが騒ぐかもしれないと心配になった。


 ところが周囲を見渡すと、誰もサキに注目していない。


 こいつ、俺ら以外には【認識阻害魔法】を使い続けてやがるな。




「魔神サキですって!? この少女が……?」


 プリメーラ姫は驚いているな。


 無理もない。

 異世界アラミレスで戦ったサキは、山のような巨人だったからな。




「サキ……、何が目的だ? なぜ聖魔学舎の監督になっている?」


「決まっておろう。高校野球の監督を、やってみたかったからだ」




 野球部一同、盛大にコケた。

 プリメーラ姫もだ。




「ええ? それだけか?」


「もうひとつあるぞ。シノブ・ハットリ。お主と野球で戦ってみたかった」


「俺と?」


「そうだ。お主は我を、最高にゾクゾクさせてくれるピッチャー。そんなお主が、我のチームと戦う。じつに面白いではないか」




 ……ちょっと待て。


 それって何か、おかしくないか?




「え~っと、サキ。野球で俺と戦いたいのはわかった。だったらなぜ、俺達のスキルやレベルを封じたんだ?」


 おかげでウチの野球部は、大幅な戦力ダウンだ。


 くに学院に、負けてしまう可能性も高かった。

 勝ったからいいものの、俺達が敗退していればサキの目的は達成できていない。




 俺の問いに、サキは視線を逸らした。


 明後日の方向を見ながら、頬をポリポリと掻く。




 こいつ……。

 まさか……?




「【聖女】ユウコのケツバットが痛かったから、カッとなってやった。あまり深く考えてなかった」




 やっぱり。

 なんて行き当たりばったりな魔神だ。




「よ……よいではないか。お主達は異世界の力がなくとも、火の国学院を打ち破り決勝戦まできた。必ずそうなると、我は信じておったぞ。さすが我のつがいになる男、シノブ・ハットリだ。くくく……」


「いまさら取り繕ってもおせえよ。ダメ魔神……」


「う……うるさい! 言っておくが、決勝戦までに封印を解いてはやらぬぞ。我が聖魔学舎から、フルボッコにされるがいい」


「俺らと決勝戦で、戦うつもりでいるみたいだけど……。まずは準決勝で津弧山館を破らないと、戦えないぜ? 大丈夫か?」


「くくく……。心配無用だ。聖魔学舎の選手達は、我が魔力で魔改造しておる。野球魔人達の試合を観て、恐れおののくがよい」


「そうか……。それともうひとつ、新任の魔神彩季監督に忠告。ユニフォーム姿の監督や選手が、スタンドの観客と会話したり席を同じくするのは規則違反だぜ」


「…………。高校野球連盟こうやれんには、絶対密告チクるでないぞ」




 俺達に念を押すと、サキは煙のように姿を消した。


 どこに行ったかと視線を巡らせれば、いつの間にか聖魔学舎ベンチに戻っている。

 今度は姿が、ハッキリ見えるようになっていた。






 聖魔学舎の選手達を魔改造?

 野球魔人?


 一体どんなプレーをするんだ?




 俺の尊敬する鉄心さんは、どうなってしまったんだ?






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